■中国でも始まる「定年延長」制度

 もっとも、「老後はのんびりするもの」という考えは、近い将来、中国でも「夢のような話」となりそうだ。

 というのも、長年実施してきた「一人っ子」政策が、少子高齢化を加速させたからだ。現在60歳(中国の高齢者の定義は60歳としている)以上の人口は約2.5億人で、日本の人口の2倍であり、「世界一高齢者が多い国」である。

  さらに、2050年には、その数が4.8億人に達すると予想されている。この数字は驚異的である。そのときはGDPの26%を介護や医療に投入する必要があるとも予想されている。2019年末の政府の最新発表では、65歳以上の人口もすでに1.8億人で、人口の12%を占めている。今後、一人っ子の親世帯が続々と高齢者になるにつれ、その深刻さはますます増していく。

 こうした状況を受け、政府はようやく動きだした。11月の初めごろ、中国政府が「国民経済と社会発展の第14次5カ年計画(2021~2025年)および2035年遠景目標についての提案」を新華社に授権し、発表された。

 中国の中長期的経済の方向性や社会の発展に関するさまざまな重要政策として注目されるが、とりわけ、その中の社会保障制度についての内容で、「基礎年金保険を全国で統一的に実現させ、法定の定年退職年齢の延長を漸進的に実施する」という一節は、大きな波紋を呼んだ。

 要するに、「定年延長」である。

 中国語版ツイッター「微博」をはじめ、主要なニュースウェブサイトで注目ランキング1位となり、メディアやSNSでも大きく議論された。

■高齢者人口の急速な増加に「2035年には底をつく」と予測

 実は2012年にも、中国政府が定年退職年齢を延長する動きがあったが、あまりに反対の声が大きかったため一時棚に上げ、「検討中」の状態だった。8年がたった今、政府が今度こそ本格的に実施を急ぐことになった。その背景にあるのは、先述の「少子高齢化」のほか、「年金資金の不足」と「労働人口の減少」である。これらはすでに多くの専門家らが指摘している。

 昨年4月に中国社会科学院が発表した『中国年金精算報告2019~2050』によると、高齢者人口の急速な増加に年金が追いつかず、「2035年には底をつく」と予測している。

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中国ではほとんどの人が 「退職年齢の延長」に反対する理由