●金利誘導目標の修正狙う 異次元緩和撤退の「理論武装」

 じつは、日銀の検証の狙いは別のところにある。関係者によれば、将来の異次元緩和からの“撤退”を視野に、これ以上の追加緩和はせず、金利の誘導目標を少しずつ上げていくといった「微調整」について、リフレ派の政策委員に納得させるための“理論武装”だというのだ。

 黒田東彦総裁の下、日銀が「2%物価目標」を掲げて「異次元緩和」を始めたのは2013年4月のこと。日銀がインフレ目標実現を約束し、大量に資金供給をすれば「インフレ予想」が生まれるという理屈で、「2%」を「2年程度」で実現するはずだった。

 だが、実現時期の先送りが繰り返され、2016年9月には金融緩和の手法を、金利のイールドカーブを低く抑える「長短金利操作」に転換せざるを得なかった。これは、「短期戦」から、低金利を維持して需給ギャップを改善し、物価を徐々に上げる「持久戦」に切り替えるというものだ。

 だが、背景には異次元緩和の“色”を徐々に薄める戦略があったとみられている。その後、国債の買い入れペースを「年間80兆円」の半分程度に抑えたのも、4月に実現時期を削除したのも、その一環というわけだ。

 持久戦に切り替えた2017年は、需給ギャップこそプラスになったものの、しかし賃金や物価が思うように上がらず、リフレ派の政策委員の一部からは追加緩和の声が上がっていた。

 とはいえ、低金利による銀行の収益悪化や年金の運用難、そして日銀が大量の国債などを購入してきたことによる資本市場の機能マヒや財政規律の弛緩といった「副作用」が目立ってきた。しかも、金融政策の正常化に向かう欧米の中央銀行に比べて、日銀だけが大きく取り残されている。

「異次元緩和をこれ以上続けても、物価が2%には届かないのがはっきりしてきた。金融の正常化はまだ先にしても、景気拡大が続いている間に、将来、利下げなどができる“のりしろ”をつくっておきたい」

 そんな本音が日銀内から聞こえてくる。

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伝統的な物価の考え方に戻す狙い