●リフレ派主導の時代に幕引き 脱デフレの政策論争に決着

だが、そうした思惑を持つ日銀の“壁”になっているのが、リフレ派の政策委員たちだ。

 1990年代後半、景気停滞と物価下落が続く中で台頭したリフレ派は、「インフレやデフレは、貨幣的な現象」だと考え、「物価が上がらないのは、金融緩和が足りないから」として、通貨供給量を大幅に増やすことで政策的にインフレを起こす積極的な金融緩和策を提唱した。

 また、インフレ目標や長期国債の買いオペレーションなど、政策の枠組みを大胆に変更してインフレ予想(予想インフレ率)を引き上げることで、「金利がゼロになっても実質金利は下げられる」し、「投資や消費も増える」と主張してきた。

 安倍晋三政権も、リフレ派を政策ブレーンとして迎え入れたほか、日銀のボードメンバーにも送り込み、議論を主導させてきた。

 日銀が改めて「物価検証」を実施しようとしているのは、こうしたリフレ派との長く続いてきた論争に“決着”をつけようという主流派の思惑が働いている。

 じつは、長短金利操作に切り替えた2016年にも、日銀は、物価が上がらない背景を「総括検証」で分析した過去がある。

 しかしその際は、原油価格下落や消費増税といった外的要因と、日本ではインフレ予想が将来を示す物価目標などよりも、現実の物価の上昇具合の影響を大きく受けてしまう(「適合的な期待形成」と呼ばれる)という“特殊要因”を挙げただけの表面的な分析で終わった。

「リフレ派の委員を説得しきれなかったからだ」

 その内情を日銀OBの一人はこう話す。

「16年の総括検証は、どうしても異次元緩和の効果を否定する印象にならないよう配慮せざるを得なかった。それを今回の物価検証では、日銀の伝統的な物価の考え方に戻そうということだろう」

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変わる「トロイカ体制」の力関係