●経済人の感覚で政治を行った立志伝中の人物

 李元大統領は、一連の疑惑に対して有罪なのか無罪なのか。私はコメントする立場にはないが、少し視点を変えて、私が知っている李元大統領の人物像について簡単に述べてみたい。

 李元大統領は日本の大阪生まれで、戦後、韓国に帰国したものの貧しく、アルバイトをしながら高校、大学を卒業した。高麗大学時代は、学生会長を務めて逮捕歴もあったが、朴正熙元大統領に直訴して現代建設に入社。入社当時90人だった従業員を、46歳で会長職を退いたときには10万人を超える企業にまで発展させた。1日に5時間以上寝たことがなく、18時間は働いていたと言われている。

 そういう意味で、李元大統領は立志伝中の人物であるとともに、経済人の感覚で政治を行ってきた人とも言える。

 李元大統領から直接聞いた話だが、ソウル市長時代、市中心部を流れる小さな清渓川を再開発しようとした。そこには高速道路が通っていたため、当初、地元住民が大反対したという。しかし、再開発によって地価が上昇し、市民が集まることで街の活性化が実現すると説得、結果、住民は大喜びしたという。

 また、地下鉄でストライキが実施されようとしたときには、地下鉄公社の幹部たちに運行の練習をさせ、スト中でも継続運転させることでストを収めた。さらに、労働組合との交渉では、自身が関与しなかったにもかかわらず、副市長がまとめた妥結内容を忠実に実行し、市長退任後に労組から感謝状を送られたという。それまでの市長がきちんと実施しなかったことから、労組が驚いたというのだ。こうした感覚は、経済人の感覚そのものだ。

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地政学にも日韓関係にも理解