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パソコン教室、0円。

文・内藤みか

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 この秋、私はいそいそとお教室に通っていた。何を習っているかというと、ワープロソフトであるワードの使い方である。全4回の料金は無料。
 教室にいるのは抽選に当たった10人。共通しているのは全員がシングルマザーだということ。そう、これは、お役所が企画してくれた「ひとり親のためのパソコン教室」なのである。

 作家のくせに私はワードが大の苦手だった。なぜなら機能がいっぱいありすぎて、何をどうしたらいいかわからないから。飛行機の操縦席には天井までボタンがついていて圧倒されるけれど、あれと同じ感覚になってしまう。

 さてなぜお役所がワード教室を開いてくれるのかというと、シングルマザーの就労支援のためらしい。ワードが使えると事務職の就職の時に有利なのだろう。平日の夜に行われた教室では仕事帰りらしいぱりっとしたスーツ姿のお母さんが真剣な表情でPCに向かっている。部屋着のようなだらしないワンピースは私だけで、結構恥ずかしい。

 そして授業が進むにつれ、私は「あれ?」という気持ちになった。私が覚えたいのは原稿の校正や原稿用紙設定など、自分の作家稼業に役立つ機能だったのだけど、そうしたことは学習メニューに出てこなかった。プログラムは私が想像していたのとは全然違う方向に進んでいく。

 気づいたら私は、四苦八苦しながら『クリスマスパーティーのご案内』というチラシを作成していた。ツリーの画像をページに貼り付け、サイズを調整し、その上にお星様の形の枠を付け「会費1000円」などと文字を入れていく。

 そう、この教室ではチラシ作成の技術をマスターできたのだった。
 講師の先生は「会社ではチラシ作成する場面がきっとあると思います」と言っていた。

 私が原稿に四苦八苦している時間に、どこかのオフィスでは同じソフトでカラフルなチラシを作っているだなんて考えたこともなかった。ああ、そこではオフィスラブなんてのもあったりするのかしら......。

 期待していた校正機能は覚えられなかったけれど、もうひとつのワードの顔に思いを馳せることができて、私は結構充実した時間を過ごすことができたのだった。


(更新 2011/10/27 )


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プロフィール

内藤みか(ないとう・みか)

 小説家、エッセイスト。山梨県出身。デビュー当時「ケータイ小説の女王」の異名をとリ、現在も電子書籍サイトのダウンロードランキング常連。「年下男恋愛」「イケメン」についてのコンテンツを作り続け、「イケメン評論家」としても活動。近年はイケメン恋愛ゲームのシナリオや、芝居の脚本も手がけるように。『夢をかなえるツイッター』などSNSに関する著作も。近著に『誰も教えてくれない Facebook & Twitter 100のルール』。twitterアカウントは @micanaitoh

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