劇団☆新感線の公演『シレンとラギ』、大阪公演の幕が開きました。
 初日前日の通し稽古であるゲネプロを見ていて、ひさしぶりに「ああ、新作の始まりだなあ」という感じがしました。
 いや、新感線はいつも新作なんですけどね。昨年夏の『髑髏城の七人』が、七年ぶりの再演だったくらいですから。
 それでも、今回のゲネプロはちょっと違った。

 一昔前、新感線の初日はひどいと言われていた時期があります。
 とにかく段取りの多いタイプの芝居です。照明、音響、小道具、立ち回り、いろいろな要素がてんこ盛りで、稽古しても稽古しても時間が足りない。キャストもスタッフもアップアップで初日に臨む。幕を開けて芝居をとめずになんとか最後までやりきるのが精一杯。そんな時代があったのは確かです。
 この時代は、初日前の緊張感ときたら大変なものでしたが、最近は、さすがにそんなこともなくなりました。
 大劇場の作り方にそれぞれ慣れてきたこと、集客数が飛躍的に増え予算がかけられるので、稽古の段階からスタッフも稽古場についているので、劇場に入ってからの作業が以前に比べれば減ったことなどが理由でしょうか。
 それなりに大変だし、それなりに緊張しているのは間違いないのですが、もう少し余裕を持った雰囲気で初日が迎えられていたし、芝居の出来もそれなりなレベルでスタートできていた。

 でも今回は、なぜか久しぶりに、ゲネプロで昔の緊張感が蘇りました。
 稽古は順調だったと思うのです。劇場入りの前の一週間は通し稽古ができましたし。ですが、なぜか劇場に入って最後の通し稽古で、うまく芝居が流れずミスも多かった。衣装を着け小道具を持ちといった段取りに追われてしまっていた。
 ちょっと「明日の初日大丈夫かな」という張り詰めた空気が流れました。
 それがなんだか、「ああ、昔は初日前はこうだったなあ」という気持ちを思い出させたのでしょう。「新しい物が、今、生まれようとしているんだなあ」という感覚を久しぶりに味わいました。
 ただ、同時に「でも明日は多分大丈夫だな」と思える余裕もあったのが、若い頃とは違うところですね。
 役者もスタッフもあの頃とは違う。今日あったミスはもう起こさない。そう信頼できる人たちともの作りをしているという信頼関係があるからでしょう。

 稽古中から、何人かの劇団員に「今回は異色作ですね」と言われました。 
 劇団員勢揃いだし、いつもの新感線らしいところはあるのですが、主役の藤原竜也くん永作博美さんを中心に、普段より生々しい物語にしています。話の流れ上、生理的な不快感をもたらすシーンもあるかと思います。
 今の状況で、こういう物語をやっていいのか少し迷ったところもあったのですが、「今、自分が書きたいものを書くことが一番いいだろう」と思いきりました。 

 いくつかミスはあったものの、初日はいい感じで開けたと思います。
 藤原君も永作さんも、普段の新感線とはちょっと違うトーンの芝居をするのが新鮮です。彼らのまとっている空気がこの物語を成立させてくれるし、ただの殺伐としたものでは終わらない膨らみを持たせてくれています。
 アンケートやネットなどで初日の感想を見てみても、それなりに受け入れられたようなので、少しほっとしています。
 
 新しい作品が誕生しました。
 東京千秋楽の7月2日までに、どこまで育ってくれるか、楽しみです。