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書き手にとってのプレッシャーとは

文・中島かずき

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さて、僕自身は油断大敵な大阪行きでしたが、『蛮幽鬼』の方は無事に大千秋楽を迎えました。
 東京・大阪公演あわせて58ステージ。9万人近いお客さんが観に来てくれたことになります。チケット代も決して安くはないのに、本当にありがたいことです。

 キャスト・スタッフをあわせると100人近い人間が関わっていたのですが、インフルエンザにかかる人間も出ず、最後まで走りきることが出来ました。
 どの公演もケガと病気が心配なのですが、特に今回は新型インフルエンザが流行していてヒヤヒヤしていました。
 舞台は生もの。メインキャストがインフルエンザにでもかかれば、その間休演せざるを得ない。キャパ1200人の劇場で、例えば4日間5公演休演したとする。チケット代は平均1万円と考えたとして、ざっと6千万円。これを返金するとしたら大変なことになります。
 大千秋楽のあと、ある役者が「たとえ自分が最初にインフルエンザにかかったとしても、怖くてとても言い出せなかったと思う。『体調悪いけどただの風邪なんで』とかごまかしてたでしょう」と冗談を言っていたのですが、半分は本音だったのかもしれません。その気持ちは充分にわかります。

 そこでふと思い至りました。
 台本を書いている時に、自分はその芝居の総予算のことを意識しているか。
 結論から言えば、全然と言っていいほど気にしてません。
 悩むのは、ストーリー展開や各キャストの見せ場、シーンとシーンのつなぎがうまくいっているかなど、技術的なことがメインです。
 舞台はリアルタイムですので、役者の着替え時間や休息の時間も考えなければいけません。
 前のシーンでボロボロの服を着ていたが、次のシーンでは立派な服になっているとすれば、少なくともその役者が着替える時間は舞台の上にはいられません。
 ずっと出ずっぱりで歌を歌いダンスをし、ボケてツッコミ、激しい殺陣を行う。それを二ヶ月間、毎日繰り返すなんてことになれば、どんなに頑強な人間でも死んでしまいます。
 新感線のクライマックスは、ずっと激しい立ち回りが繰り広げられることもありますが、さすがに中心の役者は入れ替わっている。物語上は、主人公にはずっと戦っていて欲しいが、そうはいかない。では、どうやって舞台上から中抜けさせようか。 そういうことに悩んで筆が止まることはあっても、「うわ、次の芝居の総予算、9億円だ。俺がヘタな脚本書いて、不入りだったらどうしよう」などと考えて怖くなることはありませんでした。
 脚本を書いている時の意識は、動員300人だった時も今もあんまり変わってない気がします。でないと、書けないですよね。というか、今まで予算のことなんかを意識したことがなかった。なまじ、こんな文章を書いたことで、これから気になりだしたらまずいですね。
 ただ、実際にはそんなことを気にするよりは、他に気にしなければならないことが山ほどありますから、そちらの処理で手一杯という感じです。

 抽象的な金額よりも先に、台本が遅くなることで困るスタッフの方々の顔がリアルに浮かびますからね。怖いと言えばそちらのほうがよっぽど怖い。
 とりあえず『薔薇とサムライ』を急いであげないと。
『蛮幽鬼』の余韻に浸っている精神的余裕はありません。 
  


(更新 2009/12/ 4 )


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プロフィール

中島 かずき(なかしま・かずき)

 劇作家、脚本家。福岡県出身。1985年より劇団☆新感線の座付き作家に。「阿修羅城の瞳」「髑髏城の七人」などの物語性を重視したエンターテイメント時代活劇"いのうえ歌舞伎"を多く生み出す。「アテルイ」で第47回岸田國士戯曲賞受賞。コミック原作や、アニメ「天元突破グレンラガン」(07、09)脚本・シリーズ構成、「仮面ライダーフォーゼ」(11)メイン脚本など幅広く活躍。脚本を手がけた「真田十勇士」(演出:宮田慶子、主演:上川隆也)が8月から上演される

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