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新感線の新作「蛮幽鬼」、ついに始動!

文・中島かずき

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 劇団☆新感線の秋公演『蛮幽鬼(ばんゆうき)』の稽古に行ってきました。
 新感線の新作は去年の夏の『五右衛門ロック』以来。1年ぶりになります。

 今回のゲストのうち、上川隆也(かみかわたかや)さん、千葉哲也(ちばてつや)さん、山内圭哉(やまうちたかや)さんはすでにいのうえ演出は経験済みですが、堺雅人(さかいまさと)さん、稲森いずみさん、早乙女太一(さおとめたいち)くんの三人は、新感線初参加。
 一度本読みをすると、その後はさっそく立ち稽古に入ります。とりあえず舞台の上の絵を作るために役者の動きを決めていく。その動きを身体になじませたら、そこに自分の気持ちをのせてくれというのがいのうえのやり方です。
 戸惑い気味な初参加組ですが、そこは劇団、いのうえメソッドに慣れた役者やスタッフがフォローしてくれて、徐々にわかってくれることでしょう。
 
 この『蛮幽鬼』ですが、タイトルには随分苦労しました。
 アレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯』をモチーフにした復讐譚(ふくしゅうたん)です。ただ、『モンテ・クリスト伯』では、主人公のエドモン・ダンテスは幽閉された監獄島でファリア神父という高潔な人物と出会い、教養と知識そして復讐のための資金を手に入れるのですが、「もしそこで出会ったのがレクター博士のように頭脳明晰だが冷徹な殺人鬼だとしたら」というプロットは割合早く浮かびました。
『モンテ・クリスト伯』がモチーフとはいえ、あの時代のように堂々と主人公の復讐を正義として書くことは、今の自分には出来ません。
 一方の正義は一方の悪になる。20世紀という戦争の世紀の一つの帰結点だった冷戦構造が崩壊し、21世紀になり、結果的に「国家」と「民族」の対立という、人間の歴史がずっと抱えてきた問題が何も解決されていないことに直面して、自分達が今から何をよすがに生きていけるかを模索するしかないと考え不安に思っているこの時代に、個人の復讐というテーマをどう描くかと考えていたのですが、このプロットならいけそうだという手応えを感じました。
 新感線はエンターテインメントです。
 まず面白くあらねばならない。
 ストーリーとキャラクターとテーマ、その三つがうまく絡み合い、物語のうねりを作り大きなカタルシスを迎える。
 それが理想です。
 頭でっかちに作家がテーマだけを振りかざしては駄目なんです。舞台の上の人間達の感情のぶつかりあいが面白くなければならない。
 上川隆也の復讐鬼と堺雅人の殺人機械。これは僕も見てみたい。自分が見たい舞台を作る。この感覚を大事にしてきました。

 他のキャストのキャラクターと位置づけも決まり、なんとか脚本は動き出しました。 しかし、タイトルが決まらない。
『モンテ・クリスト伯』を『巌窟王(がんくつおう)』と訳したのは、明治時代の作家、黒岩涙香(くろいわるいこう)です。
 彼の言語感覚は素晴らしい。
『噫無情(ああむじょう)』、『鉄仮面』、『死美人』『白髪鬼』『幽霊塔』『人外境』『暗黒星』・・・・・・。タイトルを見ただけでワクワクします。
『噫無情』が、ヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』なのは有名ですが、ボアゴベの『鉄仮面』なんて、原題は『Les Deux Merles de M. de Saint-ars』。『サン・マール氏の二羽の黒ツグミ』という意味らしいです。
 ツグミが鉄仮面ですよ。土佐の女子高生が鉄仮面かぶるよりも大胆だ。
 江戸川乱歩(えどがわらんぽ)も、涙香のタイトルには惹かれたらしく、『白髪鬼』や『幽霊塔』は自分でさらに翻案しているし、『暗黒星』はタイトルだけいただいて別の小説を発表している。
 まあ、乱歩が涙香に影響を受けたのはタイトルだけではないのでしょうが、それにしても、いいタイトルが多い。
 しかもなぜか三文字。
 ちなみに、三文字の題名で有名な翻訳小説というと『巌窟王』と同じデュマの『三銃士』がありますが、こちらの訳者は涙香ではないようです。ただし、訳されたのは明治時代のようですので、三文字題名は当時の流行りだったのかもしれませんね。

 平成も20年を過ぎた今ですが、今回の芝居のタイトルも漢字三文字にはこだわってました。
『巌窟王』のようにハマる題名はないものか。考えに考えたのですが、なかなかしっくり来るものはありません。
 しかしプロットには題名を書かなきゃいけない。
 決まらないものは仕方ない。とりあえず『題未定』としておくか。お、これも漢字三文字じゃないか。これでいいや。と、いう捨て鉢な気持ちにもなりかけましたが、さすがにそうはいかない。
 第一『題未定』という小説を小松左京(こまつさきょう)さんが書いている。
 うんうん唸って、とりあえずプロットの時には『悪名王』という仮題をつけていました。ジャストフィットというわけではないが、まあまあニュアンスは伝わる感じです。自分としては一番ましな題名でした。
 実はこのタイトルも某所からの借り物です。
「ほんとにこの題に決まったら、とりあえず使用させてくれとお願いに行かなきゃいけないなあ」と思っていました。

『蛮幽鬼』という題名に決めたのはいのうえです。
 プロットを読み、いろいろ試行錯誤の上たどりついた題でした。字面が気に入ったらしいです。
「また鬼か」と思う気持ちはあったのですが、今回は本当に復讐鬼の話だから仕方ないと言えば仕方ない。
 漢字三文字という僕のこだわりにもあってるし、これ以上自分からもアイディアは出ないので、細川プロデューサーの意見もあわせて「これでいきましょう」ということになりました。
 
 難産の上に生まれた『蛮幽鬼』。
 キャストが映ったポスターを見ると、もうこれしかないという気になるから不思議です。 


(更新 2009/9/10 )


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プロフィール

中島 かずき(なかしま・かずき)

 劇作家、脚本家。福岡県出身。1985年より劇団☆新感線の座付き作家に。「阿修羅城の瞳」「髑髏城の七人」などの物語性を重視したエンターテイメント時代活劇"いのうえ歌舞伎"を多く生み出す。「アテルイ」で第47回岸田國士戯曲賞受賞。コミック原作や、アニメ「天元突破グレンラガン」(07、09)脚本・シリーズ構成、「仮面ライダーフォーゼ」(11)メイン脚本など幅広く活躍。脚本を手がけた「真田十勇士」(演出:宮田慶子、主演:上川隆也)が8月から上演される

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