【Vol.17】会場は鉄工所。アートと音楽がつくり出す東京湾岸エリアの「新しい祭り」

原点は工場を改築した
アートファクトリー

 オイル・ショック真っただ中にあたる1970年代半ば、東京の湾岸エリアに京浜島という人工島が誕生した。すでに飽和状態だった蒲田周辺の町工場はこの島へと次々に移転。東京ドーム22個分にあたる103ヘクタールの土地に数多くの鉄工所がひしめき合う一大工業団地が形成された。鉄工島フェスはそんな「鉄工所の島」を舞台とする、他に類を見ないアートフェスだ。

 近年、上海の莫干山路50号や北京の798芸術区のような工業地域がアートエリアとして生まれ変わるケースがアジア各地でも見られるようになっているが、京浜島でも2016年にオープンアクセス型のアートファクトリー、BUCKLE KÔBÔがオープン。もともと鉄工所の一部だったスペースを借り受け、数人のアーティストが制作を続けている。このBUCKLE KÔBÔはアートファクトリーとして使用される一方で、オープン以来、ライブイベントも定期的に開催。その延長線上で発想され、2017年に初開催されたのが鉄工島フェスだった。

鉄工所の島で見いだされる
新たな風土と土着性

 会場となるのはBUCKLE KÔBÔや須田鉄工所、京浜島防災広場。初年度は石野卓球、七尾旅人、TRI4THらによるパフォーマンスや、漫画家の根本敬による巨大絵画の展示、塚本晋也監督作品『鉄男』など映画作品の上映など、鉄工所の島にさまざまな表現が花開いた。普段はまず足を踏み入れることのない鉄工所の空間でライブやDJプレイが繰り広げられる様は、かなりのインパクト。クラブイベント以上の非日常空間が広がっており、初年度から大きな話題を集めた。

 鉄工島フェスの特徴のひとつとして、京浜島という土地の風土を意識した作品制作が行われている点が挙げられる。これまでにBUCKLE KÔBÔの運営にも携わるアーティスト・コレクティブ、SIDE COREらが京浜島で滞在制作を行ったほか、東京を中心に活動する劇団、快快が湾岸エリアをテーマに作品を制作。同エリアのリサーチを踏まえて羽田に伝わる伝統的な祝い唄「羽田節」を作品中に使用するなど、湾岸エリアの土着性に光があてられた。

 また、古い電化製品を電子楽器として蘇生させるプロジェクト「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」では工場の職人たちとコラボレーション。工場用扇風機を楽器に改造したほか、ステージには工場の職人も登場。ブラウン管テレビが発する電磁波を「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」主宰の和田永や観客、職人のあいだに通電させ、電子音として演奏する「通電の儀」など、ユニークな試みが行われた。

 音楽やアートを通じ、京浜島という近年生まれた「鉄工所の島」の風土や土着性を発見し、表現すること。そうした試みを続けている鉄工島フェスもまた、新しいタイプの祭りといえるのかもしれない。

鉄工島フェス

毎年秋

会場:大田区京浜島
鉄工島フェス
https://tekkojima.com/

文:大石始  写真提供:鉄工島フェス
本企画は『東京の魅力発信プロジェクト』に採択されています。
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