【Vol.30】デザイナー・皆川明さんに聞く お祭りとデザインの結び目

 東京大井町に生まれ、幼少期を蒲田で過ごしたという皆川さん。「白金台に来る前にアトリエがあった阿佐谷では、ジャズのフェスティバルがあったり、パールセンター商店街では七夕まつりがあったり。ローカルなお祭りだけれど、毎年みんながそれを楽しみにしている様子が伝わってきて、とてもよかったですね」

 この七夕まつりの見どころは、商店街の各店舗による手作りの巨大な張り子の人形。アニメのキャラクターだったり、動物や魚だったり、各店舗が毎年趣向を凝らした張りぼてはお祭りの名物となっています。

「きっと、子供たちの記憶に残るんだろうなあと思うと、なんだか心が温かくなるんです。自分が好きなキャラクターが、大きくなってふわふわ浮いていたら、子供にとっては夢のような世界なんでしょうね。僕も蒲田に住んでいた幼少時代、地元でお神輿を担いだりしました。そういう小さな頃のお祭りの体験を、阿佐谷のほのぼのとした空気の中でもう一度思い出したりできるのもいいなあと思いますね」

写真提供:阿佐谷商店街振興組合
写真提供:阿佐谷商店街振興組合

 ほかにも、デザイナーとして興味を持ったお祭りは、お姉さまとお母さまが住んでいる盛岡で、初めて見た「さんさ踊り」。「女性らしい流麗なしぐさでリズミカル。みんながその世界に入り込んで集中して踊っている様子が印象的でした。盆踊りを超えて、神聖さがあるんです。こうやって、次の世代にきちんと文化を引き継いでいるんだなあと感心しました」

また、毎年夏に1カ月を過ごすというフィンランドには「夏至祭」があります。
「お祭りといっても、とても静かなんです。みんなでフォークダンスを踊って、最後は大きな焚き火をします。それをみんなで静かに眺めるんですが、夏の喜びというよりも、祈りに似た空気が流れていますね」

写真提供:皆川さん
写真提供:皆川さん

 お祭りの形は多種多様ですが、その根本は五穀豊穣を始め、自然の恵みに対する感謝や祈りであり、それはどんな国でも同じ。そんな「お祭り」をデザイナーの目で見てみると、私たちとは違った何かが見えてくるものなのでしょうか?

「たとえば農業などは、常に努力をしてきたとしても、最後の最後には神頼みの部分が残っています。人間の力が及ばない自然との付き合いだから、一生懸命やるんだけれども、神様にもお願いする……。そういう感じが僕はとても素敵なことだと思っています。『努力すれば、なんとかなる』ではなく、『努力もするけれど、これは自然の恵みなんだ』と思う心を忘れない。僕らのものづくりは、自然相手ではないけれど、工場などで作ってくださる方に『委ねる』という部分があります。服は自然物ではないけれど、『他者に委ねる』という点では同じ。自分ひとりの力ではなく、多くの人が関わって、さらにそのことによって、工場の仕事が絶えることなく、人々の生活を支えていく。その循環が大事ですね」と皆川さん。

 どんなにAI(人工知能)が発達しても、人々は目に見えない何かに感謝し、お祭りで踊ります。今、国内外で「ミナ ペルホネン」の服が、多くの人に愛され続けているのは、服やバッグなどの美しさはもちろんのこと、そのものづくりのプロセスにみんなが「真実」を感じるからなのかもしれません。
本当のことは、決してなくならない……。日本のお祭りがこれからも続いていくように、皆川さんのデザインやものづくりも続いていきます。

語り:皆川明

デザイナー。1995年にファッションブランド「ミナ」を設立(2003年から「ミナ ペルホネン」)。16年に「平成27年度 芸術選奨文部科学大臣新人賞」を受賞。19年には東京都現代美術館で、ブランドと皆川さんのものづくりや世界観を紹介した展覧会「つづく」が開催された(2020年6月より兵庫県立美術館に巡回予定)。

取材・文:一田憲子

本企画は『東京の魅力発信プロジェクト』に採択されています。
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