【Vol.06】人々の胃袋を支えてきた築地の地で行われる「日本一おいしい盆踊り」
複雑な歴史をたどってきた
築地の地ならではの魅力
築地は少々特殊な場所だ。もともとこの地には海が広がっていたが、1657年に起きた記録的な大火ののち、西本願寺の別院(現在の築地本願寺)の信徒を中心に埋め立てが進められ、築地の地が造成されたという。1923年の関東大震災の際には一面焼け野原となるが、その後各地の新鮮な食材が集まる築地市場が完成。2018年に移転するまで東京の住民たちの胃袋を支え続けた。
そのように紆余曲折を経てきた築地の中心地、築地本願寺で行われている築地本願寺納涼盆踊り大会は「日本一おいしい盆踊り」とも呼ばれている。場内には築地の名店が出すブースが立ち並び、それぞれの名物料理を安価で楽しむことができる。こちらを目当てにやってくる来場者も多く、各ブースには開始してすぐに長い行列ができる。
この盆踊りは2019年で72回目という歴史を誇るが、一部の飲食ブースではリユース食器が使われるなどゴミの削減にも積極的に取り組んでいる。また場内アナウンスは日本語だけでなく英語や中国語でも行われ、来場者の変化にも対応する現在進行形の盆踊りでもある。築地本願寺ボーイスカウト・ガールスカウトや築地本願寺合唱団楽友会がブースを出していたりと、築地本願寺を中心にしたコミュニティーの強いつながりを感じさせるが、やってくるのは地元住民とその家族、仕事帰りのビジネスパーソン、外国人観光客など多種多様。開かれた雰囲気があり、ピクニックのようなリラックスしたムードが会場を覆う。
エキゾチックな本堂のもと、
盆踊りの伝統的味わいを堪能
この盆踊りのもうひとつの魅力は、建築家・建築史家の伊東忠太博士が設計し、1934年に完成した本堂のエキゾチックなたたずまいだ。古代インド・アジア仏教様式を模した本堂には色とりどりのステンドグラスや動物の彫刻が施されており、眺めるだけでも楽しい。設計に際しては建築研究のためアジア各国を旅した博士の体験が生かされているそうで、提灯の明かりと月明かりのもと、仏教伝来のルーツが美しく浮かび上がる光景は目をみはるほどの美しさだ。なお、盆踊り期間中は夜20時まではその本堂も開いており、参拝することが可能。「夜の法座」が行われることもあり、深遠な仏教世界に触れることもできる。
この盆踊りでかかるのは古風でオーセンティックな楽曲が中心。近隣の盆踊りで定番化しているディスコ調の盆踊りソングがかかることもない。宮城県の代表的民謡「斎太郎節」が踊られるが、築地では三橋美智也が1960年代に吹き込んだ重厚なバージョンがかかる。最後に踊られるのは、同地のご当地音頭である「築地音頭」。さまざまな踊り手に対して開かれた盆踊りでありながら、築地という土地のプライドと美学も感じさせる盆踊り大会である。
文:大石始 写真:大石慶子
本企画は『東京の魅力発信プロジェクト』に採択されています。
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