【Vol.24】木村伊兵衛賞受賞写真家・中野正貴さんが見た、東京のお祭りで人々が輝く瞬間

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 東海道五十三次の起点である日本橋から、西に下る1番目の宿場町として栄えた品川では、 江戸の伝統と文化を後世に伝えるために「しながわ宿場まつり」を開催している。祭りは毎年 2日間開催されるが、初日の見どころは何と言っても煌(きら)びやかな衣装に身を包んだ美女達が外八文字(つま先をまず内側に向け、それから外へ開いて歩をすすめる歩き方)の足さばきで商店街を練り歩く「おいらん道中」である。ここが江戸時代に「北の吉原、南の品川」と称されたほどの遊興地として賑わっていた史実はあまり知られていないが、品川宿が陸海両路の玄関口であったことを鑑みれば、さぞかし活気にあふれた街であったろうことは容易に想像できる。

 日が沈み暗い闇が辺りを包みはじめたころに、首元から足先まで真っ白に化粧された花魁(おいらん)がゆっくりゆっくりと歩を進めながら現れると、街は一瞬にして江戸時代へとタイムスリップする。江戸の庶民は、現在で言えば女優をあがめるような気持ちで花魁に心奪われていたと思うが、一握りの選ばれし者が放つ風格と妖艶さは時代に彩りを添え、街に潤いを与えていたに違いない。現代によみがえった花魁達もなかなかにみやびやかな雰囲気を醸し出している。ストロボの光に照らし出された姿態は美美として輝き、祭りが一気に華やいだ。

 僕はいつも祭りの絢爛(けんらん)とした光彩にひかれるのだが、それは単に煌びやかな衣装をまとっているということにとどまらず、晴れの舞台で自分を解放する人そのものから放たれるエネルギーの輝きに魅了されているのかもしれない。

 祭りの2日目に行われる「江戸風俗行列」も興味深い催しである。旧東海道は江戸と京都を往復する大名の参勤交代の行列が通った道なので、公募で選ばれた100人ほどの参加者が江戸時代の武士や町人、町娘等に扮して行進する。それぞれが役柄になりきって練り歩くのだが、なかには「この人は誰に扮(ふん)しているの?」 と思うような、突飛な出でたちで現れる者もいて、観客達の笑みも絶えない。当時の大名行列はもっと厳粛で、庶民達も神妙な面持ちでその列を眺めていただろうが、現代の行列は演じる者と見る者が一体となって街を盛り上げる「祝祭」の意味合いを強く感じる。

 祭りの写真を撮るコツとは「いかにその輪の中に溶け込んで撮れるか」ということに尽き る。僕も行列の中に入り、当時に思いをはせながら撮影を楽しんだ。

写真・文:中野正貴

1955年、福岡県生まれ。翌年から東京在住。79年、武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業。80年からフリーランスとして活動し、各種広告、雑誌表紙などを手がける。2000年、無人の東京を撮影した写真集『TOKYO NOBODY』 (リトルモア)を発表し、映画や文学にも影響を与え話題となる。翌年、日本写真協会賞新人賞を受賞。05年、建物の窓から東京の特徴を捉えた写真集『東京窓景』 (河出書房新社)により、第30回木村伊兵衛写真賞を受賞。19~20年には東京都写真美術館で写真展「東京」を開催。
http://www.artunlimited.co.jp/artists/masataka-nakano.html

本企画は『東京の魅力発信プロジェクト』に採択されています。
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