【Vol.04】盆踊りとはどこからやってきて、どこに向かうのか。その進化のプロセスを知ることで見えてくる「思い」

踊り念仏から「オバQ音頭」へ。
その背景にあるもの

 盆踊りはもともと、死者や先祖の精霊を供養するための行事「お盆(盂蘭盆会/うらぼんえ)」と密接な関係を持っている。精霊を迎え、ともに踊ることによって供養し、ふたたび送り出す。盆踊りとは本来、そうした一連の流れのなかにある宗教儀式であるわけだ。

 そんな盆踊りの原点のひとつとされるのが、鎌倉時代中期の僧侶にして時宗の開祖である一遍上人(いっぺんしょうにん)が広めた宗教舞踊、踊り念仏。これは念仏を唱え、踊りまわることで極楽往生が約束されるというもので、一遍上人が全国を遊行する姿を描いた絵巻「一遍聖絵」(いっぺんひじりえ)のなかにその踊り念仏のシーンが描かれている。時代が進むとともに、そうした宗教儀式である踊り念仏に娯楽的・芸能的側面が加えられ、庶民の楽しみとして各地でそれぞれの盆踊り文化が花開くこととなった。

 盆踊りの流れを一変させたのは、昭和8年にレコードが発売されるやいなや、全国的なヒットを記録した「東京音頭」。以降、それぞれの土地の名前を曲名や歌詞に織り込んだローカルな音頭が制作されるようになった。古くから伝承されてきた伝統的な盆踊りに加え、住民のレクリエーションのための盆踊りが全国に広まったのはこれ以降のことだ。

 昭和40年代に入ると、「オバQ音頭」が200万枚ものセールスを記録。アニソンにアイドル、コミックソング、ディスコやポップスなどなど、盆踊りはさまざまな文化を吸収。700年以上前に踊り念仏を始めた一遍上人も、現在のような未来はきっと予想もしていなかったことだろう。

再録版/写真提供:ビクターエンタテインメント
再録版/写真提供:ビクターエンタテインメント

盆踊りの現代的な意義とは。
近年は盆踊りの再評価ブームも

 盆踊りは時代の変化を映し出す鏡でもある。少子高齢化が進み、かつて盆踊りを支えた地域コミュニティーが崩壊すると、各地で多くの盆踊りが途絶えた。その一方で、団地や郊外の新興住宅地など戦後になって立ち上がった新しいコミュニティーでは、盆踊りが住民たちをつなぐ役割も果たしてきた。甚大な被害をもたらした2011年の東日本大震災以降には、被災地支援を目的とするさまざまな盆踊りが立ち上がった。盆踊りはここで「死者の供養」という本来の目的に立ち返ったともいえるだろう。

 ここ数年は盆踊りの魅力を再評価する機運が高まっており、新感覚の盆踊りが各地で始まっている。その一方で、数百年の歴史を持つとされる盆踊りも各地で続けられている。夏の日本ではありとあらゆる盆踊りのリズムが鳴り響いているのだ。

文:大石始 写真:大石慶子
本企画は『東京の魅力発信プロジェクト』に採択されています

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