【Vol.11】人と人をつなぎ合わせる、ユニークな都市型盆踊り

「崎陽軒」のCMソングも盆踊り化?
その盛り上がりはまさに圧倒的

「にゅ~盆踊り」の熱狂を初めて目の当たりにしたときの衝撃は忘れられない。オリジナルの盆踊りである「にゅ~盆踊り」や「東京音頭」「炭坑節」など既存の楽曲に加え、山本リンダの「どうにもとまらない」や、横浜のシウマイ専門店「崎陽軒」のCMソングもかかるレパートリーにまず驚かされるが、衝撃だったのはその盛り上がり。会場を埋め尽くす来場者のなかには、つまらなそうに体を揺らしているものは誰ひとりとしていない。全員が汗をほとばしらせながら全力で踊り、声を上げている。池袋という都心のど真ん中ということもあって、通りすがりの人たちもどんどん踊りの輪のなかに吸い込まれていく。

 踊りの輪の中心にいるのは、コンテンポラリー・ダンスカンパニー「コンドルズ」を主宰する振付家・ダンサー、近藤良平。この「にゅ~盆踊り」は「あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)」および豊島区が主催し、コンドルズとあうるすぽっとがプロデュースを務めている。

 スタートしたのは2009年。その前年に「あうるすぽっと」で盆踊りの振り付けを考えるワークショップが開催され、それがきっかけとなって池袋西口公園で実際に盆踊りが行われることになった。「珍しいキノコ舞踊団」(2019年4月解散)などダンスカンパニーと盆踊りが接点を持つケースが近年見られるようになっているが、その動きを象徴するのがこの「にゅ~盆踊り」といえるだろう。

盆踊りリーダーたちが踊りを先導。
フォークダンス的な振り付けも人気

「にゅ~盆踊り」の人気の理由は、振り付けの楽しさにもある。ペアで踊るなどフォークダンスの要素が入っていたり、ハイタッチをするシーンがあったりと、踊り手同士のコミュニケーションが重視されているのだ。最初は少し照れくさいだろうが、慣れてしまうと通常の盆踊りとは違う楽しさがあり、自然と笑みがこぼれる。

 また、この盆踊りでは事前にワークショップを行い、豊島区内の各会場でコンドルズのメンバーが参加者に踊りを伝授。彼らは「しゃ~隊」と呼ばれるリーダーとなって、踊りの輪を先導する。通常の盆踊りでも地元の踊り愛好会などが先生役となり、櫓の上で手本となる踊りを踊ることがあるが、「しゃ~隊」は手本であるとともに、来場者を巻き込み、踊りの輪へと導く役割も併せ持つ。

 近年盆踊りの新しい試みが各地で進められているが、「従来の地域コミュニティーとどのような関係を結ぶことができるのか」という課題も浮上している。「にゅ~盆踊り」の場合、「しゃ~隊」を組織するほか、ワークショップを開催する形でも地元住民を巻き込んでいる。コミュニティーのなかで育まれてきた従来の盆踊りの様式やシステムをうまく活用しながら、新しいスタイルを創造する「にゅ~盆踊り」。都市における盆踊りの未来像がここから見えてくる。

にゅ~盆踊り

毎年夏開催

会場:池袋西口公園(2019年度は東池袋中央公園で開催)
にゅ~盆踊り
https://www.owlspot.jp/events/performance/post_119.html

文:大石始 写真:涌井直志
本企画は『東京の魅力発信プロジェクト』に採択されています。
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