『ハイ・オフ・ライフ』フューチャー(Album Review) 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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『ハイ・オフ・ライフ』フューチャー(Album Review)

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『ハイ・オフ・ライフ』フューチャー(Album Review)

『ハイ・オフ・ライフ』フューチャー(Album Review)


 昨年2月に発表した『ジ・ウィザード』から1年3か月、通算8枚目となるスタジオ・アルバム『ハイ・オフ・ライフ』。フューチャーのネーム・バリューだけで十分ではあるが、全21曲、70分超えの大ボリューム且つ、人気ラッパー&プロデューサーを迎えた内容からも、2020年のヒップホップ・アルバム大本命・代表作となることは間違いなさそう。アルバムのエグゼクティブ・プロデュースは、フリーバンド・ギャングのメンバーでもあるDJエスコが担当。両者は、ミックステープ『56ナイツ』(2015年)でもコラボレーションしている。

 アルバムからは4曲の先行シングルがリリースされているが、中でもドレイクとの再タッグ曲「Life Is Good」は、アルバムの核ともいえる存在感を放っている。同曲は、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で初登場2位にデビューし、8週間連続で同位をキープする大記録を打ち出した。初登場からの記録としては、マライア・キャリーの「Always Be My Baby」(1996年)が保持していた4週を大きく上回る、歴代最長記録となる。

 同曲の大ヒットを受けてか、本作のタイトルは当初『ライフ・イズ・グッド』としてリリースされる予定だったが、新型コロナウイルス(COVID-19)の関係で戦略を調整するにあたり、直前で『ハイ・オフ・ライフ』に変更された模様。

 平穏に暮らす我々日本人の「人生は最高だ」とは大分温度差があり、「意味わかるだろう?」という問いにもすんなり頷けはしないが、ラップ界のトップに君臨する両者の言いたいことが(いろんな意味で)詰まっている、ような気はする。ドレイクとフューチャーのパートでビートが一転する構成は、ドレイクがトラヴィス・スコットと大ヒットさせた「Sicko Mode」(2018年)を下敷きにしたような作り。アルバムの最後には、リル・ベイビー&ダベイビー参加のリミックスも収録されている。

 そのトラヴィス・スコットは、4曲目に収録された「Solitaires」という曲にゲストとして参加している。同曲のプロデュースを務めるのは、過去の作品でも多くの曲を提供してきたウィージー。滑らかなボーカルをラップに溶け込ませたトラヴィスのフックもすばらしく、「Life Is Good」に匹敵する完成度の高さ。ウィージーは、ヤング・サグが参加した「Harlem Shake」と、DYクレイジーが制作に参加した4thシングル「Tycoon」のプロデュースも手掛けている。

 昨年夏にリリースした1stシングル「100 Shooters」は、ミーク・ミルと前述のフリーバンド・ギャングのメンバーでもあるドゥ・ボーイの2人を招いた意欲作。音数を上手く計れない独特のビート、和音感のない旋律、バックで流れる不気味な鳴き笛すべてが斬新で、フューチャーの楽曲としては珍しいタイプの曲、といえる。最新のスタイルを取り込んだサウンドを手掛けるのは、テイ・キースとドイツのプロダクション・デュオ=キュービーツ。キュービーツがプロデュースしたナンバーでは、ショーン・レオンの「Favourite Rapper」をサンプリングした2段階式の「Ridin Strikers」と、交際が囁かれたモデルのロリ・ハーヴェイについて歌った「Accepting My Flaws」の2曲も優秀。この2曲には、いずれも共同プロデューサーとしてサウスサイドがクレジットされている。

 サウスサイドがプロデュースしたナンバーでは、金と名声を歌った「Touch the Sky」、政治的な要素をほんのり滲ませた「Hard to Choose One」、奥行きあるバックトラックを重ねたダウンビートの「Too Comfortable」など、アトランタらしい味加減の曲もある。リル・ダークがゲスト参加した2ndシングル「Last Name」や、4月末にリリースしたミックステープ『38 Baby 2』が好調の、ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインとのコラボレーション「Trillionaire」等、若い才能に好意的な姿勢を示したナンバーも秀逸。

 その他、自画自賛を歌ったオープニング曲「Trapped in the Sun」、プロダクションチーム・808マフィアのプロデューサー=TM88による「Pray for a Key」、咳止め薬を用いたドラッギーな「HiTek Tek」、フューチャーの既定路線ともいえる「One of My」、DJスピンズによるプロデュース曲「Posted with Demons」等、不規則なハイハットと低音を唸らす、フューチャーらしいゴリゴリのトラップが連なる。

 前作『ジ・ウィザード』で一区切りし、本作『ハイ・オフ・ライフ』で新章がスタートしたと話すフューチャー。アルバムの内容については「新しいことに挑戦し、最前線であること。そして自分自身とファンに忠実であり続けたい」と公言している。功績としては、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で3rdアルバム『DS2』(2015年)から前作『ジ・ウィザード』まで、5作連続の首位を獲得。ドレイクとのコラボレーション・アルバム『ホワット・ア・タイム・トゥ・ビー・アライヴ』(2015年)を含めると、これまで6枚のアルバムが全米No.1を記録している。本作で7作目の1位を獲得することも期待されているが、同日に強豪のリリースも控えてないことから、おそらく首位デビューは間違いないだろう。

 しかし、シアラとの泥沼訴訟騒動(2015年)を起こしても、なおこれだけの人気を博しているというのは、アメリカならではというか、何というか。日本では、あれだけ好感度の落ちたアーティストが何枚ものアルバムを1位に送り込むなんて、到底考えられないが。

Text: 本家 一成


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