<コラム>「ヨット・ロック」が生んだ、クリストファー・クロスの再評価
<コラム>「ヨット・ロック」が生んだ、クリストファー・クロスの再評価

 最近、日本で囁かれている「ヨット・ロック」という言葉について、どんな音楽を指しているのかわからない音楽ファンも多いはずだ。簡単に言ってしまえば、70年代後半から80年代前半にかけてアメリカで生み出された、R&Bやジャズ~フュージョンの要素を取り入れた大人のためのロックのことだ。
 
 えっ、それはAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)じゃないかって? 実はAORは言葉も定義も日本産。本国ではアダルト・コンテンポラリーやソフトロックと呼ばれているものの、AOR以外にもカントリー風の音楽などが含まれており、「ハードロックではないロック」くらいの意味しかない。
 
 こうした状況が変わったのは2005年のこと。お笑い専門ネットテレビ局「チャンネル101」で『ヨット・ロック』と題された短編コメディ番組がスタートしたのだ。ディープな音楽オタクのJ. D. ライズナーらがクリエイターを務めたこの番組は、日本で言うAORをヨットが似合う爽やかな音楽であることから「ヨット・ロック」と名付け、その名曲の誕生秘話を再現ドラマ方式で語るユニークなものだった。これがYouTubeで拡散されて人気を呼び、アメリカにその定義が普及していったのだ。

 番組でヨットロッカーとして登場したのは、ドゥービー・ブラザーズの大ヒット曲「ある愚か者の場合」を共作したマイケル・マクドナルドとケニー・ロギンスのコンビをはじめ、スティーリー・ダン、TOTO、そしてクリストファー・クロスといった面々。全員が人脈的に繋がっているLA在住のアーティストなことに注目してほしい。つまり番組でヨット・ロックと定義づけられたのはLA産のAORだけだったのだ。日本では異論が出るかもしれない認識である。

 しかし、この人脈に拘った認識が、ヨット・ロックをムーヴメントへと成長させることになった。番組が、TOTOがバックアップしていた時代のマイケル・ジャクソンもヨット・ロックとして扱ったことで、テン年代にリバイバルしたディスコ~ブギーと同時代のブルー・アイド・ソウルとして聴かれるようになったのだから。この認識がミュージシャン側にフィードバックされた成果が、サンダーキャットがマイケル・マクドナルドとケニー・ロギンスをゲストに招いた傑作アルバム『ドランク』だったわけだ。

 そんなヨットロック・ブームの中、本国ではクリストファー・クロスにかつてない再評価の波が押し寄せている。美しいハイトーン・ヴォイスとR&Bを隠し味にした洗練された作曲センス、そしてマイケル・オマーティアンやジェイ・グレイドン、数々の曲でバックヴォーカルとして参加してきたマイケル・マクドナルドといった職人たちのプレイが光るアルバムの完成度の高さに至るまで、彼の作品はエヴァーグリーンな魅力を湛えているのだから当然なわけだけど。

 それにしてもヨット・ロックという言葉、「セイリング」なんてタイトルのナンバーを代表曲に持つクロスのために用意されたジャンル名みたいではないか。

Text:長谷川町蔵

◎公演概要
【クリストファー・クロス】
ビルボードライブ東京
2019年5月5日(日・祝)~ 5月6日(月・祝)
1st Stage Open 15:30 Start 16:30
2nd Stage Open 18:30 Start 19:30

2019年5月7日(火)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30

ビルボードライブ大阪
2019年5月8日(水)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30