『クリス』クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズ(Album Review) 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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『クリス』クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズ(Album Review)

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『クリス』クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズ(Album Review)

『クリス』クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズ(Album Review)


 クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズは、フランスの人気都市・ナント出身の女性シンガー・ソングライター=エロイーズ・ルティシエのソロ・プロジェクト。この名前は、英ロンドンのゲイクラブでひらめいたらしい。“ザ・クイーンズ”は、ドラァグクィーンからきているのかな?高校では演劇を学び、2010年からミュージシャンとしての活動をスタートさせる。

 2011年にEP盤『Misericorde』をリリース。コンスタントにミニ・アルバムを発表し続け、2014年7月に『シャルール・ユメンヌ』でアルバム・デビューを果たす。本作は、本国フランス、イギリス(UK)で2位、ベルギー、アイルランドではNo.1に輝き、フランスの【グラミー賞】と呼ばれる【ヴィクトワール】で2部門を受賞するなど、高い評価を受けた。

 その『シャルール・ユメンヌ』から約4年振り、2作目となるスタジオ・アルバム『クリス』。本作では、全詞・曲、そしてアレンジ~プロデュースを、自身が手掛けているとのこと。このクオリティでヒットメイカー(大物プロデューサー)を起用していなというから、彼女の奇才っぷりには圧倒されるばかり。また、アルバムは実質2枚組とされていて、ストリーミング・サービスでは英詞のタイトルが11曲、フランス語のタイトル12曲(L'Etranger (Voleur d'eau))の計23曲が収録されている。サウンドのみならず、言語も巧みに使いこなすとは……。

 プロデューサーを起用せず、あえて「売れ線」を狙わなかった理由については、「自分をより表現するため、パーソナルな作品にしたかったから」と話している。他者が入ると、色んな雑念や情報が入り混じって、独自の世界観が薄れてしまうからね。そういった意味では、最高のコンセプト・アルバムになったのではないだろうか。お聴きいただければ、(言葉が通じずとも)理解できると思う。

 その傾向は、カバー・アートにも現れていた。フェミニンな仕上がりだった前作から一転、全盛期のデヴィッド・ボウイとか、今でいうとミーカとか(ちょっと違う?)、エイティーズ・テイスト満載のベリーショートで上目遣いのエロイーズが超カッコイイ。ここ最近は、ケイティ・ペリーやクリステン・スチュワートなんかもバッサリいったしね。ベリーショートの時代がいよいよくるのかな……。

 話は逸れたが、その個性溢れる“エイティーズ・テイスト満載”のジャケットが、音にも反映されていて。オープニングの「Comme si」から、エイティーズ・ファンクが炸裂している。一瞬、リイシューかと思ったくらい(笑)、当時の音をまんま、再現。イヴリン・シャンペン・キングとか、メルバ・ムーアとか。そのあたりのハッシュ・サウンドっぽい感じもする。

 5月にリリースした先行シングル「Girlfriend」では、西海岸のブギー大使ことデイム・ファンクとコラボ。彼も2015年にアルバム『インヴァイト・ザ・ライト』で、80年代のディープなグルーヴをリメイクしていた。この曲もまさに、クールなディスコ・ファンクで、両者の息もぴったり合っている。もう1曲のシングル「Doesn't Matter」は、直球の80年代アメリカン・ポップ。コリン・ソラル・カルド(アリシア・キーズ、ジャック・ホワイトなど)がディレクターを務めたミュージック・ビデオも、当時の青春映画のような仕上がりになっている。

 その他にも、カメオやジミー・ジャム&テリー・ルイスの作品を彷彿させる、ファンキーな「Goya Soda」、シンディ・ローパーあたりが歌っていた、 中期のスムース&メロウ「The Walker」、いつまでも浸っていたくなる中毒性をもつ、涼し気なメロウ・フローターの「The Stranger」など、80年代テイスト満載。一方、キレの良さや強弱の付け方、シャウトなどを意識しまくった「Damn (What Must a Woman Do)」や、80年代ではなくて『デンジャラス』(1991年)の頃のニュージャック風ダンサー「Feel So Good」など、彼女が敬愛するマイケル・ジャクソン流のポップ・プロダクションもあって面白い。

 ポップなリズムに幻想的なコーラスが掛け合わさる 「5 Dollars」、流行のドリーム・ポップ「What's-Her-Face」、ファルセットと地声の対比が男女の垣根を超えた「Make Some Sense」 など、これまでの流れを覆すかのようなタイトルもあって、聴きごたえも抜群。あらためてだが、これらを単独で制作したと思うと、ただ「凄い」としか言いようがない。

 前作は、自身のコンプレックスや社会への不満などを訴えるような内容だったが、本作は自分を受け入れた作品。直接的なものもあれば、第三者目線で歌う曲もある。女性的でもあり、男性的でもある。強さ、弱さ、フェミニストのアイデンティティも全てをさらけ出して。商業的ではないけど、必ず誰かの心には響くアルバムだ。さすが、評価とレビューを集積するウェブサイト、メタクリティックで91点という高得点を獲得しただけはある。


Text: 本家 一成


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