警官による黒人少年射殺事件でヒップホップが本来の姿へ
警官による黒人少年射殺事件でヒップホップが本来の姿へ

 米ミズーリ州ファーガソンで黒人少年マイケル・ブラウンが警官に射殺された事件を受け、ラッパーたちが曲を通じ彼らの“声”を発し始めた。抑圧され不公平に対する人々の“声”を伝えるといった、本来持っていたヒップホップの原点へと向かっているのだ。

 ロックの殿堂入りアーティストであり、ラップ界で最も強力な“声”を持つ1人、パブリック・エネミーのチャックDは最近のインタビューにて、「ヒップホップが果たす役割を知る事はとても重要だ。実際、彼らが立ち上がったことは称賛されるべきだ」とコメント。また、まる腰だったブラウン(18)が8月9日に警官に射殺されたことにインスパイアされ、その心の痛みと悲しみを歌った「ビー・フリー」を公開したJ.コールなどのラッパーたちに感銘を受けたとも話している。

 ファーガソンでの抗議デモに参加したタリブ・クウェリ、CNNのパネルディスカッションに出演したデヴィッド・バナー、ブラウンに敬意を表し10代の若者のために奨学金を創設したネリー、ロジャース&ハマースタインの「私のお気に入り(My Favorite Things)」を引用した曲「ブラック・レイジ」をファーガソンの人々に捧げたローリン・ヒルなど、ラップ界ではその他多くのアーティストたちが抗議の声をあげている。

 また、ヒップホップ界が同事件に対して示したもっとも大きな行動は、ザ・ゲームが8月27日にトリビュートソング「ドント・ショット」をリリースしたことだろう。同曲にはディディ、リック・ロス、2チェインズほか、多くのヒップホップスターが参加しており、その売り上げはGoFundMeに開設されたマイケル・ブラウン・メモリアル基金に贈られるとのこと。2週間で既に30万ドル(約3,130万円)が集まっているそうだ。

 他にも、女優のケリー・ワシントンやジェシー・ウィリアムズ、25日のブラウンの葬儀に出席した映画監督のスパイク・リーといった黒人の芸能人たちが声をあげており、ジョン・レジェンドは先日のハリウッド・ボウル公演にて、マーヴィン・ゲイの偉大な曲「ホワッツ・ゴーイン・オン」をパフォーマンスする際、“don't shoot(撃つな)”と書かれたTシャツを着ていた。

 ヒップホップ界で最も多くの作品を送り出し、人気のあるジェイ・Z、ファレル、カニエ・ウェスト、リル・ウェインといったスター達がこれらの動きに加わってくるのかも注目されている。

 セックスと暴力を賛美しているとして非難されるヒップホップだが、特に初期は、「ファイト・ザ・パワー」「ザ・メッセージ」といった曲のように、ミュージシャン達が不公平だと思うことに声をあげてきた歴史がある。最近では2012年にも、トレイヴォン・マーティンの死をきっかけにその事例があった。

 T.I.は先日、「New National Anthem」なる曲を公開している。同曲はマーティン(17)殺害で2013年7月にジョージ・ジマーマンへ無罪判決が出た際に書いたという。彼は一般社会と市のリーダー、警察の間で議論が始められることを望んでいるとし、「人種・肌の色・世代・宗教を隔てるのではなく、また、人々の感情を煽り立てたり、警察に逆らうよう人々を助長するものでもない。これは我々の黒人青年や若い黒人たちにアメリカ都心部での現状を知ってもらうことで、変化をもたらそうとしているんだ」と最近のインタビューで語っている。

 また、自分やJ.コールの曲は、有名なラッパーのように意思表示する術がない人たちの“声”としての役割も担うとし、「我々は“声”を持たない人々の“声”であり、我々のメッセージはアメリカの一般社会の人々の耳にも届くだろう。そしてこれはより大衆の利益のためにこそ使われるべきなんだ」とも話している。