閑静な木々に囲まれたニューヨーク郊外に、ミュージシャンたちにとっては神聖な場所とも思える簡素なレンガ造りのランチハウスがある。

 ジャズサックス奏者のジョン・コルトレーンが1964年、ロングアイランドのディックス・ヒルズに越して間もなく名作『至上の愛(A Love Supreme)』を作曲したのがこの家だ。しかし、コルトレーンはがんで1967年に40歳で亡くなったため、ここに住んだのはわずか3年だった。現在では、サックス奏者である息子のラヴィ・コルトレーンやカルロス・サンタナなどのミュージシャン達が、荒れ果てた4ベッドルームの家を、博物館および学習センターに変えようとするボランティア活動を支援しているのだ。

 サンタナは3万ドルを集めるのに一役買ったマンハッタンの資金集めにて、「コルトレーンの家はジャズの歴史、文化史、アフリカン・アメリカンの歴史、ニューヨークの歴史、アメリカの歴史などに興味のある誰しもの道しるべとなるものだ」と語った。ギターの名手サンタナは古くからのコルトレーン・ファンで、1973年にはジョン・マクラフリンと連名でトリビュートアルバム『魂の兄弟たち(Love Devotion Surrender)』をリリースしている。

 10年ほど前、開発業者が3.5エーカー(約14,000平米)のこの家を取り壊して小さな家を3軒建てるために購入したことを地元のジャズファンであるスティーブ・フルゴーニが知ったことから、この家を復旧させる動きが始まった。フルゴーニの尽力により町が公園にする目的で開発業者から97万5,000ドルで買い上げることになったのだが、ここを博物館にするのは個人の資金でなければならないと話しているそうだ。

 何年も放置されていたため家は無残な状態だが、内装はほぼ60年代にコルトレーンが住んでいた頃のままだという。

 この運動の責任者であるロン・スタインは先月、団体がすでに約12万ドル集めたことを伝えた。また、建築家や電気・一般請負・カビ取りなどの業者から現物での寄付もあるという。

 スタインらによると募金の目標は150万ドル(約1億4,800万円)で、来年の『至上の愛』50周年記念でオープンさせることを夢見ているものの、現実的ではないことを認めている。

 National Trust for Historic Preservation(歴史的保存のナショナル・トラスト)は2011年、この家を“最も存続が危ぶまれる11の歴史的場所”のひとつに指名した。

 会長のステファニー・ミークスは「コルトレーンは公民権に関するメッセージとして“至上の愛”を発表したわけではないが、この名曲は人種の壁を越え、国が人種問題で分裂していた時代に統一のシンボルとなった」と述べている。