番組の収録現場やロケ現場で、若いADがディレクターや先輩ADから、怒鳴られたり、殴られるのは日常茶飯事。名前も呼ばれず、「デブ」呼ばわりされている女性ADもいた。
さらに驚かされたのが、そうした光景を目の当たりにしても、周囲も平然としていたことだ。
当時、その“感覚”を不思議に思い、懇意の某民放テレビ局の系列子会社の番組制作会社のディクレタ―に話を聞いたところ、「ウチらの世界ではこれが常識。現場でまともな戦力にならない若手ADなんかゴミ以下だし、みんな通ってきた道だから。この程度のしごきに耐えきれないようなら、さっさと辞めた方がいい。テレビ業界に憧れているヤツらは腐るほどいるし、人手には困らない。新聞記者さんたちは甘いよね」と言われたものだ。
もっとも、さすがに今の時代、こうした感覚は通用しなくなっているようだ。
前出のディクレタ―氏と最近会ったら、「今は暴力なんてとんでもない。ここのところコンプライアンスだのなんだの何かとうるさいし、“上=(直系のテレビ局)”の人間の耳に入ったら仕事を切られちゃうからね。それにキツイ職場というイメージが世間に広がっているのか、テレビ業界を目指す若い人たちも減っているし、キツイことを言うとすぐに辞めちゃうので、“お客様待遇”だよ。ADなんかは常に人手不足。日本のテレビのノウハウを学んで母国で活かそうという外国人スタッフを雇っている会社も多いよ。彼らはハングリーで根性もあるし、目的意識が高いから重宝されているよ」とのこと。
現場レベルでは変化の兆しが多少は見られる一方で、巷にあふれるテレビ業界のセクハラ、パワハラ騒動を知るにつけて、“上”の方の時代錯誤の感覚はいまだに根強くはびこっているのだろう。
その背景には、テレビというメディアがいまだに強い影響力を持っていること以外に、2つの要素が考えられるという。
一つは、テレビの世界では“肩書き”や“立場”が絶大な効力を発揮するという点だ。