「先生、どう思います?」


「信用して大丈夫ですかね?」

 などと聞かれましたが、私としては全く分からない世界のことなので、私は聞き返しました。

「仮に、それでご主人が彼女と別れたら?」

とお聞きしたら、

「また別の女をつくるかもしれないって、言いたいんでしょうけど、客観的に見てあんなしょぼくれたおじさん相手にする人なんかいませんよ。だから結局私のところに帰ってくるはずです」

とおっしゃいます。確かにそう転がるかもしれません(特に短期的にはそうなる可能性がそこそこあると思われます)。ただ、見落とされていることもあると思います。

 登美子さんの考えは、要するに「夫が自分より魅力を感じて行動をおこしてしまう相手を消し続けていけば、自分のもとに居続けてくれる」というものです。

 ちょっと悲しい気分がしました。登美子さんは自らを「夫が他に行くところがなくなった時に(仕方なく)最後に選ばれる存在」と位置付けています。つまり、自分で自分の価値(健康的なプライドといってもいいかもしれません)を値引いているわけです。

 同時に、私はなんだか、庭木の剪定みたいだな、とも思いました。

 きれいに剪定された庭木も何日か経つと、一部の枝が抜け駆けのようにすっと伸びることがありますよね。そうなったら、その伸びた枝を切り落とせば、庭師の望む美しい形を維持できます。しかし、それはその木が望んで育ちたい形ではないわけです。剪定を続けることによって、形式美は維持されますが、その木が自然状態ならこう伸びたいというのはわからなくなります。庭木なら、誰もそんなの知りたくないでしょうけど。

 登美子さんの夫の場合はどうでしょうか。仮に登美子さんの戦略がうまくいったとしても、夫が登美子さんにどういう気持ちを持っているのかは、剪定されてしまっている以上、実感できなくなります。これは、夫の気持ちをも値引いているように私には思えます。

 値引くことの問題点は、自分や相手が価値のないつまらない人間になっていくことです。それは幸福感を引き下げます。結婚の価値(幸福感)を増やしたいなら、逆の戦略が必要です。付き合い当初とか、結婚式の時の、相手がこの世で最高の人だと感じる感覚は、自分史上最高の価値を相手と自分に感じているということです。その時、幸せを感じますよね。そういう時に浮気は起こりにくいのも事実です。

 浮気は問題です。しかし、短兵急な解決策ではなくて、いつかの流行語大賞になった「米百俵」の精神(いまは苦しくても将来利益をもたらすこと。小泉純一郎元首相が使った言葉)での構造改革が必要なのだと思います。(文/西澤寿樹)

※事例は事実をもとに再構成してあります

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