電気自動車(EV)メーカーの米テスラは2010年に米ナスダック市場に上場して以来、最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏が宇宙、EVなど新技術の未来を語り、資本市場から資金調達しては事業を拡大してきた。いわばマスク氏は「市場の寵児」だった。だがここにきて、市場離れを画策したが、結局は市場に引き戻された。マスク氏の戦略がすべて正しかったとは思わない。だが「市場」もまたいつも正しいとも思えない。
騒動が始まったのは8月7日(現地時間)。マスク氏がツイッターで「(1株当たり)420ドルで非公開化できないかと考えている」とつぶやいたのが始まり。混乱の原因は2016年春に発表された量産EV「モデル3」だった。1台3万5000ドル(388万円)という価格で売り出し、それまでの超高級車路線から一気にEVの量産化を目指したのだ。だがクルマが大量にうまくつくれなかった。16年5月に17年下期には10万~20万台を生産すると目標を明らかにしたものの、実際の生産台数は3000台にも届かなかった。
発売発表から1週間で32万台以上の受注を集めたが、すべての客の手に入るのはいつのことだか分からない状況となった。客からも証券市場からもテスラの経営に疑問符がつき始めた。昨年9月に上場以来の最高値をつけた同社の株価はその後、伸び悩んだ。
自動化された生産ラインに大きな投資をし、量産化を目指したのにクルマがつくれない。生産ラインの見直しが進められ、人海戦術で生産するという作戦に変更した。その結果、生産ラインは元の建屋からはみ出し、テントづくりの工場をつくらざるを得なくなった。
クルマがつくれず、売れない一方で、ラインを見直し、人手をかけるのだから、お金は出ていくばかりである。18年4~6月期の四半期決算では7億ドル余り(約800億円)の最終赤字となった。客や証券市場からの不信感は募っていく。空売りをして稼ぐ投資家らの餌食にもなった。