「一回、試してみようと思ったんです。合うか合わないか、やってみないと分からないですしね。いいと思ったら、やってみるスタイルなんです。でも、教えてもらうことでも、何でもそうですけど、これは違うと思ったら、それは自分で除外すればいいだけのことですからね」
チームで使っているものではなく、わざわざ米国から取り寄せた、メジャー御用達の“専用ティー”。打へのこだわりは、相当なものだと思わせる逸話だったが、使ってみた上での吉田の感想は「普通と変わらないなと」。現在は寮の練習場に置いたままだというが、そうしたチャレンジ精神と行動力は、プロの世界でのし上がっていくためには、不可欠なものなのかもしれない。
入団後の2年間は腰痛に苦しみ、フルシーズンを全うできなかったが、3年目の今季は球宴までの前半戦、全80試合に出場を果たしており、打率・311はパ4位。交流戦18試合では打率・397、3本塁打に、得点圏打率5割の勝負強さも見せつけ、初の交流戦MVPも獲得。いよいよ、覚醒の年を迎えた感すらある。
青学大4年生だった3年前、オリックスのスカウト陣は、打に関しては「将来の4番」と位置づけ、指名リストの最上位にランクした。ただ守備力、走力は突出しておらず、各球団の評価も分かれていた。「打」だけなら、日本人は外国人選手のパワーに劣るというのがこの世界の“不変の評価”でもあるからだ。
そこでオリックスのスカウト陣は、秋のリーグ戦でライト側の外野席に陣取って、吉田のプレーを細かくチェックした。凡退したときでも、一塁へ全力疾走しているのか? 打撃で調子が出ないときに、外野で守っていながら、スイングの格好をしたり、上の空だったりしていないのか? そういった“精神面”でも丹念に調査。野球に対する真面目な態度に、オリックスはチームリーダーとしての素養も見いだし、1位指名に乗り出したという。
もはやオリックスだけにとどまらず、2020年の東京五輪、翌21年のWBCで、日本代表入りするだけの“心と体”を持ったスラッガー・吉田正尚。今後の活躍ぶりが、実に楽しみな選手の1人だ。(文・喜瀬雅則)
●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。