「あれだけ強く振れる選手は、なかなかいない。左打者なんだけど、左投手も苦にしないですから」
吉田をプロの世界へと羽ばたかせた恩師、青山学院大元監督の河原井正雄氏はその打撃技術を、かねて高く評価していた。河原井元監督は、第4回WBCで日本代表監督を務めた小久保裕紀氏、現ロッテ・井口資仁監督を育てた実績がある。その“スラッガーの系譜”を継ぐ教え子には、打撃をとことんまで追求しようとする、こだわりの強さがある。
ちょっとしたエピソードに、そのことがうかがえる。
米メジャー30球団で使われている「タナーティー」は、ティー打撃の際にボールを置くものだが、このティーは、日本製のものと比べ、土台がしっかりしているといわれ、ハードヒットしても大きくぐらつかない利点がある。またボールを置くゴム製のティーも丈夫で壊れにくい。ティーの高さの変化も融通が利き、メジャーの強打者たちはこぞって、この「タナーティー」での置きティーで打撃練習を行う。
日本でプロ、アマ問わずに、打撃練習前によく見られるのは「トス打撃」。選手の斜め45度付近にしゃがんだ選手が緩いトスを上げ、打った球を打者の前方に張られたネットに向かってじき返す。しかし、3冠王3回の元中日監督・落合博満氏は「あんな投球は試合でないだろ?」と否定的で、特に技術の伴わない若手には「置きティー」での打撃をさせていた。
「置きティー」だと、自分でコースを想定し、そのための体の動き、バットの出し方が必要になり、打球にスピンをかけてライナーやフライを打つために、ボールに対するバットの“入っていく角度”も、きちんと考えないと飛ばない。
吉田も、打撃練習前には必ず「置きティー」でボールを打つのが「自分のルーティンです」。プロ1年目、腰痛の影響で63試合出場にとどまったそのオフのことだった。メジャーの選手たちが使っている「タナーティー」に興味を持った吉田は、ティーの輸入を行っている球界関係者に、知人を通して接触して“マイティー”を購入。翌年の自主トレ時から、その「タナーティー」を使い始めたというのだ。