DV(ドメスティック・バイオレンス)やストーカーから逃れて暮らしている被害者の住所を、役所が漏らしてしまうケースが後を絶たない。今月18日にも、岐阜県関市が妻と子どもの現住所が記された書類を誤って夫に送付したと発表。現場で何が起きているのか、担当者の思いは。DV被害者を支援する民間団体エープラスは今年6月、全国の自治体にアンケート調査を実施した。そこから見えてきたものとは。代表・吉祥眞佐緒さんがリポートする。
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結婚と同時に始まったDV に耐え続けたA子さん(36才)が、やっとの思いで子どもを連れて逃げたのは昨年。良い条件のアパートを見つけて、子どもと静かに暮らし始めた矢先に事件は起きました。ある日、夕食の買い物に行こうと玄関のドアを開けると、夫が仁王立ちで立っていたのです。全身の血液がすっと引いていくのを感じ、そのまま静かにドアを閉め、鍵をかけました。
どうしたらよいかと、すぐに私の事務所に電話をくれました。私はすぐに110番するように伝え、駆け付けた警察官が注意したところ、夫は二度と現れることはなかったそうです。A子さんは住民票を現住所に移し、役所で“DV等支援措置”の手続きをとっていました。情報はどこで漏れたのでしょうか。
その後の離婚調停で、夫の弁護士がA子さんの現住所の情報を取得して夫に伝えていたことがわかりました。どうしてそのようなことがおきてしまったのかと、私はA子さんと一緒に役所に行って事情を聞きましたが、担当者は「交付した相手は夫ではなく弁護士で、A子さんにとって危険はないと思う」「役所としては書類に不備がなければ断る理由にはならない」と話すだけで、A子さんの恐怖や不安の気持ちは理解されていないと感じ、非常にガッカリしながら帰ったのを今でも忘れられません。
A子さんのような被害が続出するため、「DV被害者は加害者から逃げた後も住民票は移さない」ことが、いわば常識となっています。配偶者や恋人らからのDVやストーカー、親からの虐待などの被害者は、加害者の元からやっとの思いで離れることができても、役所で現住所が発覚し、探し出されてしまうかもしれないからです。