──なるほど。パワハラ以外にはどんな問題点がありますか。
報道が出た後、栄氏が伊調さんにパワハラをした理由について「コーチとしての面子をつぶされた」とか「教え子が離れたことへの嫉妬」などといった解説がありましたが、私はそう考えていません。
栄氏は2010年にモスクワで、A氏に対してコーチを辞めろと言った際に「伊調が辞めても他の選手が育っているからいい」と言っていたそうです。これが事実であれば、どういう意味なのか。伊調さんを引退に追い込むためにA氏にコーチをするなと言ったことになります。自らの方針に従う選手以外は必要ない、栄氏に近い選手しか日本代表に選ばれないことになりかねません。
──協会は、A氏が伊調選手のコーチをすることは禁止しておらず、委嘱している男子フリースタイルチームの育成・強化がおろそかにならないように指導しただけだ、と説明しています。
Aコーチの指導がおろそかになっていたという事実はありません。むしろ、Aコーチの影響で強くなった伊調さんを見て、特に女子選手から「Aコーチの指導を受けたい」との申し出もあった。選手にとって、優秀なコーチから指導を受けたいと考えるのは当然のことですが、その願いはつぶされてきました。協会には多くの問題がありますが、内閣府も報道が出るまでは「ガバナンスに問題はない」と結論を出していました。そのことも問題ではないでしょうか。
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日本レスリング協会の見解の骨子は以下の通り。
「当協会が伊調選手の練習環境を不当に妨げ、制限した事実はございません。同様に、当協会が田南部力コーチに対し、伊調選手への指導をしないよう不当な圧力をかけた事実もございません。(略)当協会として、伊調選手に対し、男子代表合宿への参加を禁止したこともございません。(略)これも当然のことではありますが、当協会が、警視庁レスリング部に対して、伊調選手を練習に参加させないことや、田南部コーチを指導から外すよう働きかけた事実もございません」
(AERA dot.編集部 西岡千史)