――がんセンターに入院する子どもたちを見て、何かお感じになることはありますか。

 小児がんの患者さんは、半年、1年と闘病してゆくなかで、本当に、みんな大きく成長してゆきます。「いつの間に、この子はこんなに強くやさしくなったんだろう」と感心させられます。

 もちろん最初は、「大きな手術をしないといけない」と伝えると、涙をこぼしたり、眼を伏せる子がほとんどです。しかし、手術日までには、みんなきちんと自分の現状を理解し、手術や治療の必要性を受け入れてゆきます。

 がんセンターには院内学級がありますが、そこにいる子どもたちも、みんな明るい。そしてとてもやさしい。

 その日、体調がすぐれない子が「先生、今日は疲れているね。大丈夫?」と逆にいたわってくれたりすることもあります。本当に、どちらが大人で、どちらが病気かわかりません。

 なぜそこまで、明るく、やさしくなれるのか、不思議に思うことがあります。唯ちゃんもそうでしたが、あたえられた命を精いっぱい生きようとする子どもたちの姿に、私たち医師も日々多くのことを教えられています。

――実際に闘病している子どもたちやそのご家族以外にも、私たちに何かできることはあるでしょうか。

「小児がん」の多くは治ることが期待できるようになりました。しかし、その陰で治療の合併症がその後何年も経ってから表れる「晩期合併症」の問題も明らかになってきました。強力な抗がん剤治療は、生殖機能や体力の低下、ホルモンバランスの崩れ、内臓機能の低下など、治療後長期間にわたって患者さんに影響を与えます。

 がんを克服した子どもたちの、長期にわたるフォローや、治療を終えたあとの自立をサポートする仕組みづくりが必要です。副作用の軽減を目指した薬剤の開発も求められます。

「小児がん」への理解がさらに深まって、子どもたちがその後の人生をよりよく生きられる社会になってゆくことを心から願っています。

(取材・構成/安楽由紀子)

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