――唯さんは足を切断後、ステージにも復帰しました。素晴らしい歌声を遺して亡くなられました。
「生きる」ことを望んで、右足を切断したはずなのに、結果的にうまくいきませんでした。運命をうらんで大声で泣いてもいいはずだけど、そんなそぶりは決して皆の前では見せませんでした。
医師として一緒に闘ってきたので、亡くなったときは大きな喪失感がありました。一方で「本当によくがんばったね」というねぎらいの気持ちもあります。
切断してよかったのか、切断しないほうがよかったのか、もう唯ちゃんに聞くことはできませんが、再びステージに立って、好きな歌を歌えたのは良かったと思います。唯ちゃんにとって悔いのない選択だったと思いたいです。
――2月15日は「国際小児がんの日」でした。「小児がん」について、教えていただけますか。
小児がんと診断される子どもは、日本で年間2000~2500人。そして、年間約500人が小児がんで亡くなっています。
「小児がん」は子どもがかかるさまざまな「がんの総称」です。小児がんのうち、もっとも多いのは、血液のがんである「白血病」で、全体の約40%を占めています。次に多いのが「脳腫瘍」で約20%。ほかにさまざまな固形がん(臓器や組織のがん)がありますが、唯ちゃんがかかった「横紋筋肉腫」はとてもめずらしいものです。小児横紋筋肉腫の発生数は日本全国で年間数十例と想定されていますが、はっきりとした統計データは残念ながらまだありません。
成人のがんでは、喫煙など生活習慣も一つの原因となることが知られていますが、小児がんは、その多くが未だ原因不明です。
――「小児がん」の治癒率はどれくらいなのでしょうか。
低リスクの場合は90%以上が治ると考えられています。しかし、診断時、体のほかの場所にすでに転移が認められる場合には、治癒率はおおきく低下します。
小児がん全体では、およそ60%の治癒率といわれています。
――成人と同じように早期発見すれば治る確率が高くなると考えていいのでしょうか。
もちろん、小児がんにおいても、早期に発見して、適切な治療を受けることは非常に重要です。ただ、がんの早期発見のために、健康な子供に毎年エックス線やCT検査を受けさせるようなことは、放射線の被ばくなどを考えると、現実には不可能です。
まれな小児がんを早く正確に発見できる安全な方法があればいいのですが、残念ながら、未だ予防法も早期発見法も確立していないのが実情です。