廃墟の王、というのは別にぼくが考えた言葉ではないです。廃墟マニアの界隈で軍艦島を表すのに普通に使われている、一種の慣用表現だとは思います。ただ、一度島を訪れてみれば誰でもそう表現せざるをえないといいますか。ぼく自身、今まで世界中の名だたる廃墟をめぐってきましたが、やはり世界基準で見ても、廃墟の「風景」の凄みという視点で見たとき、ここを超える廃墟はないと思います。単に町全体が廃墟になったような場所ならば、他にもありますし、島が廃墟になっている場所ならば他にもある。ただ、その二つの要素が同時に並存して、しかも外観は非常に優美な姿をしている。こんな場所は、おそらく世界のどこにもありません。これは日本人の間だけではなく、世界の廃墟マニアの間でも認められている事実といっていいんじゃないかと思います。

――軍艦島や廃墟が人々を惹きつける理由は?

 軍艦島についていえば、その外観は当然ですが、実は歴史的にも面白い。また中にある住宅群も当時としては最先端の建築技術が使われていただけあって、現在ぼくたちが暮らしている「町」の姿にもとてもよく似ている。そういう意味で、軍艦島の町を訪れると、まるで現代の町がそのまま風化して廃墟になったような不思議な感覚に陥ります。そうした景色が小さな島の中にコンパクトに凝集されているので、まるでSFのセットにいるような、非日常的な感覚を呼び覚まされるからではないかと思いますね。実際、軍艦島の中を歩いているときは、もう本当に、360度、どこを見てもすべてが絵になる。近場を見ても遠目を見ても、全てが見たことのない強烈な景色に囲まれます。だから写真家にとっては天国のような場所ともいえますが、きちんと考えないと、いくらでも軍艦島に「撮らされてしまう」というような状態になります。ここまで強烈な場所は他にないと思います。

――撮影ではどんな機材を使ったのでしょうか?

 今回の撮影では、実は7割方の撮影をフィルムカメラで、2割程度をドローンとデジタルカメラという変則的な形で行いました。ドローンで撮影された軍艦島というのはまだ写真としてはあまり作品が世に出ていないので、単純に見たことのない軍艦島の姿が写せたと思います。またフィルムカメラを多用したのは、やはり軍艦島の空気感のようなものや雰囲気を重視したためです。最新鋭の超高感度や超解像度で映し出すよりも、暗がりの中にある見えないものが、むしろ見えないままにある方が、あの軍艦島の特殊な雰囲気をより素直に表現できると思ったからです。写真のテイストとしても、軍艦島の景色を特殊な「情報」として写すのではなく、あくまでひとつの「風景」として捉えるように努めました。

――今回、写真に詩が添えられています。この意図は?

 この詩との出会いがなければ、多分、この本は生まれていなかったと思います。詳しくは本を見ていただきたいと思いますが、この「詩」がもたらしてくれた視点が、この島をどう切り取るべきかという視点を導いてくれたといいますか。またその視点は、ぼくが廃墟を前にしたときに考える視点ともとても近いものがあったので、変な言い方ですが、共感できるものがありました。本のタイトルをあえて抽象的な「あの島」(THE ISLAND)としたのも、この軍艦島をめぐる視点が理由です。

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