次も巨人絡みの話である。6月18日のロッテ戦(東京ドーム)で、打者としてこのうえない屈辱を何度も味わわされながらも、最後の最後で男の意地を見せたのが、13年目のベテラン亀井善行だった。

 この日2打席連続本塁打を放った阿部慎之助が、6回の打席で顔面付近の直球を避けようとして転倒した際に、右膝を痛めてベンチに下がったのが、ことの発端だった。

 7回から阿部に代わって亀井が5番に入ると、ロッテバッテリーは「くみしやすし」とばかりに4番・マギーを敬遠し、「亀井と勝負」を繰り返す。

 まず3対3の同点で迎えた8回1死一塁でマギーを敬遠し、1死一、二塁で亀井と勝負。マギーは二盗を決め、1死二、三塁とチャンスを広げたが、亀井は捕邪飛に倒れた。

 延長10回2死三塁でもロッテバッテリーは当然のようにマギーを敬遠し、亀井と勝負。マギー二盗で2死二、三塁としたが、亀井は空振り三振。悔しさのあまり、ベンチに戻ると、道具を投げつけた。

 そして、2点を勝ち越された直後の12回裏、巨人は1点を返し、なおも1死二塁と最後の粘りを見せる。ここでもお約束のようにマギーが3度目の敬遠。1死一、二塁で三たび「亀井と勝負」になった。

「最後打てなかったら、命を取られると思って……それぐらいの気持ちでいきました」と闘志をMAXまで奮い立たせて打席に入った亀井は、大嶺祐太の3球目、フォークをフルスイング。打球は劇的なサヨナラ逆転3ランとなって右翼席に突き刺さった。

 泣きじゃくりながらダイヤモンドを一周した亀井は「本当にね……心折れてたんで、奇跡としか言いようがないです。神様がいてくれた」と大感激。 

 まさに野球の神様がもたらした“3度目の正直”だった。

「今季一番かっこいいホームランだったね!」。阪神・金本知憲監督の口から思わず絶賛の言葉が飛び出した。

 ヒーローの上本博紀にとっても、地獄から天国に舞い上がった気分だったことだろう。

 アクシデントが起きたのは、前日、9月30日の巨人戦(東京ドーム)。1回無死二塁の先制機に、上本は送りバントを試みたが、巨人の先発右腕・畠世周のカットボールが左耳付近を直撃。そのまま都内の病院に直行した。畠もプレーボールからわずか4球という史上最少投球数での危険球退場となった。

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上本が逃げずに打った“カッコいい弾”