さて、思い出話はともかくとして、グラミー賞は、1950年代後半に音楽界で高まった「我々の業界にも映画界のオスカーのような表彰のシステムを」という声をきっかけに組織されたレコーディング・アカデミー(正式には、National Academy of Recording Arts and Sciences=NARAS)によって、運営されてきた。つまり、ノーベルやオスカーと同じように主体はあくまでもアカデミー=学会であり、原則的に、候補者や授賞者の選定にあたって人気や売上が重視されることはない。審査基準は、あくまでも、作品としての芸術性、革新性、社会性といったことなのだ。
また対象作品は、第60回に関していえば、2016年10月1日から17年9月30日まであいだに公式な形で発表されたものとなっている。一般のメディアでは開催年に合わせて「何年のグラミー」と表記することが多いが、オフィシャル・サイトなどでは対象年度を重視する姿勢が貫かれてきた。つまり第60回グラミーは、「2017年度のグラミー」なのである。
レコーディング・アカデミーは、シンガー、ソングライター、ミュージシャン、プロデューサー、エンジニアなど、音楽界で働く幅広い層の人たちによって構成されていて(参加した作品の数などいくつかの条件がある)、投票権を持つ会員は現在1万5千人前後だという。
こういったメンバー構成が背景にあるのかもしれないが、音楽制作に関わるさまざまな分野の人たちを対象に、等しくその功績を称えることがグラミー賞の大きな特色となっていて、84のカテゴリーのなかにはパッケージのデザイナーやライナーノーツ執筆者に与えられる賞もある。ポップ、ロック、R&B、ヒップホップ、ジャズ、カントリー、ルーツ・ミュージック、ワールド・ミュージック、クラシックなどに細分化されたジャンルの幅広さはいうまでもないが、 朗読アルバムに与えられる賞まであり、今回はブルース・スプリングスティーンが自著のオーディオ版でノミネートされている。ちなみに、過去にはバラク・オバマ、ビル・クリントン、ジミー・カーターも受賞していて、どうやらこの分野は民主党が圧倒的に優勢のようだ。