日本時間2017年11月6日午前3時。ある秘密文書に基づく報道が世界中で一斉に始まった。「パラダイス文書」。パナマ文書に続き、パラダイス文書公開にも大きく関わったのが、国際的なジャーナリスト集団であるICIJだ。この団体の一員としてデータの分析・取材にあたり、著書『パラダイス文書』を緊急出版した朝日新聞の奥山俊宏編集委員に、ICIJとはどんな団体なのか話を聞いた。
――パナマ文書やパラダイス文書といった、タックスヘイブン関連の調査報道に関わることになったきっかけは?
1990年代、バブル崩壊後の経済事件を取材していたとき、今思えばタックスヘイブンの影のようなものを見聞きしたことが何度もありました。
たとえば、東京で不良債権になっているビルの登記簿を取り寄せてみたら、所有者の住所が英領バージン諸島になっている。日本の法人によって所有されていれば、たとえペーパーカンパニーであっても役員の名前やその自宅住所が法人の登記簿に記されているので、素性を調べたり直撃取材で問いただしたりもできる。それが、持ち主がバージン諸島の会社となると、それ以上取材ができず、お手上げです。それで結局うやむやに。
タックスヘイブンは、税法上の優遇があるだけでなく、匿名性が守られ、秘密の度合いが高いのも大きな特徴です。手間とコストをかけて現地の登記簿を取り寄せても、役員や株主が仮名だったり、設立の代行をした法律事務所の名前しかなかったり。われわれ記者だけでなく、国税や警察の当局も調査を諦めるケースが多かったようです。バブル崩壊直後の日本では、そうして見過ごしにされてきた事件はたくさんあったんだろうと思います。
タックスヘイブンの「モヤモヤ」を感じながら、私は調査報道のチーム取材や内部告発への対応の仕事に携わるようになります。2009年、アメリカの実情を学ぶために留学した先で、非営利の報道機関「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」の創設者であるチャールズ・ルイスさんが教鞭をとっていました。ルイスさんが立ち上げたアメリカン大学の調査報道ワークショップに籍を置き、その縁で帰国後の11年にICIJから誘いを受けます。ICIJのメンバーになり、翌12年、朝日新聞はICIJと提携しました。