そのような現状を、選手たちはどのように見ているのだろうか?

 今季大躍進中の18歳のデニス・シャポバロフは、「これだけ多くのトップ選手が欠場しているのは、偶然ではないだろう。ツアーカレンダーが厳しすぎるのかも」と私見を述べるも、「僕はまだ、この案件について語れるほどに、たくさんの試合をしてきたわけではないから」と、遠慮気味に付け加えた。

 では、誰よりも多くの年数をトップで戦ってきた選手たちの意見はどうだろうか? 

 それに関しては少々意外なことに、ロジャー・フェデラーとラファエル・ナダルの両ベテランは、ケガの原因を「過密スケジュール」に求める世論とは異なる視座を持っているようだ。昨年負ったひざのケガから、今季鮮やかな復活劇を果たしたフェデラーは次のように述べた。

「仮にシーズンを半分の長さにしたとする。それでもケガをする選手がいれば、もっと短くしなくてはということになる。そうやって短くしてもケガ人が出れば、今度は試合数が足りていないからケガをする……という意見も出るだろう。忘れてはいけないのは、今回ケガで欠場した選手の多くは、すでに30代だということだ。長年やっていれば代償として、あちこちに損傷は出てくるものだ」

 くしくもフェデラーとほぼ同じ見解を示したのは、昨年に手首のケガに苦しめられるも、今季1位に返り咲いたナダルだ。「忘れてはならないのは、僕らはもう21歳ではないということだ。多くの選手たちはすでに30歳を過ぎている」。そう現状を俯瞰するナダルは、選手の負傷の理由はスケジュール以上に大会ごとに変わるボールにあるとの自説を展開した。

 例えば、今回の全米オープンシリーズに関して言えば、3週間前のロジャーズ・カップと、その翌週のウエスタン・アンド・サザン・オープンでは、PENN社製の公式球が使われている。それにもかかわらず全米オープンでは、ウイルソン社製が使用された。ナダルは、そのようなボールの変化が手首やひじ、肩へ及ぼす負担は非常に大きいと断言し、「もちろん契約などの事情で、大会によってボールが変わるのはしかたない。それは分かっている。ただ、ちょっとした改善をするのはそれほど難しくないはずだ。例えば、全米オープンではウイルソンのボールが使われる。ならせめて、全米オープンシリーズは全て、同じウイルソンのボールを使うべきだ」と述べた。

 ナダルは以前にも、最近の上位勢にケガが多いのは「大会単体で見れば偶然だが、大局的に見れば、理由がある」と口にしたことがある。その大局的な結論を見るには、時間が必要なのかもしれない。この欠場者の重複が、世代交代を引き起こす歴史の転換期となるのか。あるいは来季の中堅・ベテラン勢の巻き返しなるのか……その問への解も、時間が教えてくれるだろう。(文・内田暁)

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