世界中を旅しつつ、スラム街や犯罪多発地帯を渡り歩くジャーナリスト・丸山ゴンザレス。危険地帯で人々と交わした“ありえない英会話”を紹介する本連載、今回のキーワードはフィリピンの拳銃密造村で飛び出した「made in Japan」。
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2014年、フィリピンのセブ島にあるとされていた銃の“密造村”に潜入取材した。セブはビーチリゾートで有名な島。南部にあるセブシティは観光客で賑わうが、密造村がある北部はほとんど旅先として挙がることはない。
乗り合いタクシーで向かった。サポートしてくれる人はなく、たったひとりの潜入である。リスクが高いのは承知していたが、着いてみれば何の変哲もない田舎町。むしろここで銃の密造がおこなわれていることが信じられなかった。
それから紆余曲折を経て、密造工房にたどり着くことができた。旅行者を装い、何食わぬ顔で作業の様子などを見学していると、密造銃の職人が組み立てていたリボルバーが目に止まった。そこには「made in USA」という刻印。それを指差して私は言った。
「Is this made in USA?」(これアメリカ製なの?)
暗に「フィリピン製なのにね」の意味を含ませる小粋なジョークをかましたつもりだった。ところが、職人の返答は意外なものだった。
「No,this is made in Japan」(違う、日本製だ)
それは、銃のフレームが日本製であるということ。実は、10年以上前に日本のヤクザがこの村に訪れて、職人数人を雇い入れて日本に連れて行ったそうだ。職人曰く「日本でも銃を密造しようとしたのではないか」と思っていたら、しばらくして日本から銃のフレームが送られてくるようになったという。その後そして、現在に至るまでフィリピン人が日本で密造銃のベースとなるフレームを制作してフィリピンに送っているという。
この密造銃工房を取材するのは苦労した。密造銃の存在自体は広く知られていたが、実際に取材した人がほとんどいなかった。つまり、噂が先行しているだけで、具体的な情報は皆無に等しかった。フィリピン在住の日本人に聞いてみると「行けば簡単に見れるよ。あちこちから密造銃を作るカンカンって音がしてるらしいし」と、さもお手軽であるかのように言っていたのが印象的だった。
たしかに数年前まではある程度、オープンな部分もあって、日本のヤクザなども買い付けにくることがあったそうだ。ほかにも不良外国人なんかも顧客にいたそうだ。だが、現在では完全に非合法な仕事として扱われている。というのも、彼らの顧客が問題になっているのだ。
「What kind of people are your customers?」(どんな人が買っていくの?)
「They are Islamic terrorists. 」(イスラム過激派の連中だよ)
このインタビューから時を経て、現在、フィリピン南部のミンダナオ島のマラウィ市をイスラム過激派の連中が「イスラム国」として支配している。そう思うと、いかに危険な場所だったのかがわかるだろう。そして、「made in USA」がいかに無謀なジョークだったのかも。
丸山ゴンザレス/1977年、宮城県出身。考古学者崩れのジャーナリスト。國學院大學大学院修了。出版社勤務を経て独立。現在は世界各地で危険地帯や裏社会の取材を続ける。國學院大學学術資料センター共同研究員
(文/ジャーナリスト・丸山ゴンザレス、イラスト/majocco)