「卒業したら俺が返していくから」と言っていた父親が、奨学金を返してくれる様子はなかった。そんな中で、高校時代にも、彼女の名義で奨学金を借りていたことが発覚する。返済の見通しは立たなくなり、延滞が続いて、ついには裁判所からの督促状まで届いた。金銭的な問題が原因で、家族の溝はどんどん深まっていく。両親は、大学卒業から1年半後には離婚。同時に親子関係も破綻した。
現在、彼女は返済期限の猶予措置を受けている。父親との返済の約束も、ひとまず守られるようになった。しかし今後はどうなるかもわからない。来年からは収入が増え、猶予を受けられなくなる。父親との約束もいつ破られるかわからない。
「何をやっていても、『借金』のことが頭の中にあります。常に追い詰められている気がします……」。
そんな状況の中を彼女は生きている。
これだけ家族のことで苦労を重ねているにもかかわらず、彼女はインタビューの中で、幾度も家族に対しての思い入れを語っていた。
「『普通』の関係でありたいと思うんですけどね。でも甘く接することで、許されたと思われても困ります……」
そんな思いもあって実家に帰ることはない。
「奨学金のことがなかったら、今頃家族は仲良くしていたんじゃないかと時々思うことがあります」という冒頭の言葉もそんな文脈の中で語られたものだった。本音では仲良くしたいと思っている。しかしそれができない。そんな苦しみを彼女は抱えていた。
彼女の経験は、一見すれば、家族に翻弄され続けた一人の不幸な人間の物語に過ぎないのかもしれない。奨学金というより、家族関係の問題なのではと思えてしまっても仕方ない。しかし見方を変えれば、そこには社会的な問題の影がつきまとっている。もしも大学授業料が無償だったら? 給付型奨学金が充実していたら? 教育に自己責任を求める社会ではなかったら? 彼女はこんな状況に陥っていただろうか。