ノルウェーという国には、村上春樹の小説『ノルウェイの森』の印象が強いせいかうっそうとした緑のイメージを抱きがちだが、実際のノルウェーは青くて広大だ。
なかでも、圧巻なのが、フィヨルドだ。ノルウェー語で「入り江」という意味のフィヨルドは、約100万年前にできた氷河が山を削り取ってできたU字谷に海水が浸入してできたと言われている。
目前にすると、1千メートルを超える切り立った崖に目を奪われるが、真下にたたえられた静かな海は、その崖がすっぽり入ってしまうほど深い。
国内にいくつもあるフィヨルドのうち、全長200キロを超えるソグネフィヨルドはヨーロッパ最大だ。グドヴァンゲンとフロムを結ぶクルーズ船に乗ると、ごつごつとした黒い岩肌、深い群青の水など、まるで地球の創成期を思わせるような風景がどこまでも続く。
崖の中腹や、「どうやってそこまで行くの?」というほど水際ギリギリのところにも、ぽつんぽつんと民家やヒッタ(別荘)が建っていることに驚かされる。ノルウェーでは、人間の生活が大自然のごく近くにあるのだ。
ノルウェー人は内気で穏やか、日本人に似ていると言われる。雄大なフィヨルドの流れを見ていると、その理由がわかるような気がした。
※週刊朝日 2012年9月7日号