中田はシーズン前から「オフのFA権行使は確実」との報道が大勢を占めていた。しかし、不動の4番打者として期待された今季は、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)出場の影響もあり、開幕から不振続き。8月3日現在、打率.213、11本塁打、47打点の成績で、交流戦途中からは4番の座を外されることが多くなった。不振の4番に対して、栗山監督は7月8日の福岡ソフトバンク戦で、中田をプロ10年目で初となる1番で起用という奇策を打った。昨季は1番・大谷が成功するなど、“栗山マジック”とも言える選手起用だったが、中田は3打席連続三振の後、内野ゴロで4打席ノーヒットと結果は出なかった。相手投手の千賀滉大が「変な打順だと思った」とコメントしたこの作戦は、1試合のみで終わった。

 2人の誤算以外にも、4割の打率をキープしていた近藤健介が故障で今季絶望となり、打率3割を超えているのが西川遥輝のみという打撃陣に、投手陣も守護神に戻った増井は15セーブを挙げて防御率1.97と奮闘しているが、先発陣は有原航平の5勝が最高と、チーム全体が最悪の状態で、栗山監督の責任ばかりではないとも言える。

 監督采配以外で、根本的な問題と言えるかもしれないのが、前述の大谷、中田に象徴される球団のチーム運営における経営方針だ。これまで北海道日本ハムは、選手の年俸と年齢をシビアに査定し、FAやトレードで主軸の選手を積極的に放出し、代わりに若い有望選手を抜擢する、そのチーム作りが成功を収めていた。

 古くは小笠原道大がFA移籍し、ダルビッシュ有のポスティングMLB移籍を容認。糸井嘉男をトレードで放出し、昨年も陽岱鋼や吉川光夫など、多くの主力選手が他球団に移籍した。それでも近藤や西川、岡大海などの若手が台頭し、ドラフト上位で獲得した大谷や有原らが戦力となり、さらに矢野謙次や大田泰示など、トレードも有効に活用してきた。

 その独自のチーム作りがこれからも継続していけるのか、ひとつ間違えれば大変なことになってしまうことが実証されたのが、今シーズンだったのかもしれない。今年のトレード期限の最終日である7月31日には、昨季まで3年連続で50試合以上に登板し、今季も36試合登板とフル回転していた谷元圭介が、金銭トレードで中日に放出された。オールスターにも出場した投手が、金銭で移籍という事態に、周囲からは疑問の声が上がったが、推定年俸1億円の谷元は6月に国内FA権を取得したばかりで、近い将来の移籍を見込んでの放出とみられる。

 独自の経営方針を貫くチームを率いる栗山監督の苦悩は、まだまだ続くのかもしれない。