2017年3月、厚生労働省が歯みがき剤のフッ素濃度の上限を引き上げた。歯質を強化し、再石灰化を促すフッ素を、適切に取り入れていくのが望ましいということだ。週刊朝日MOOK「いい歯医者2017 誰も教えてくれなかった歯科の選び方」では、むし歯予防の世界基準について解説している。
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突然ですが、質問です。むし歯を予防するためには、以下のAとBのどちらがもっとも重要だと思いますか?
A:歯みがきで口を清潔にする
B:フッ素入り歯みがき剤の使用
多くの日本人はAと答えるのではないでしょうか。でも、世界基準は違います。
むし歯予防の世界的権威として知られるダグラス・ブラッタール歯科医師が、2003年に世界のむし歯予防の専門家55人にアンケート調査しました。その結果、Aを重要視する人は約7割程度なのに対し、Bはほぼ全員が「重要」と答えました。
「にもかかわらず、当時の日本にはフッ素の入っていない歯みがき剤がまだあり、むし歯に悩まされている人でもフッ素入りを積極的に使おうとはしていませんでした」
そう話すのは、むし歯予防に詳しいクラジ歯科院長の倉治ななえ歯科医師です。
フッ素とは自然界の物質で、歯みがき剤には「フッ化ナトリウム」などの化合物で添加されています。フッ素は歯の再石灰化を促進する効果があり、毎日使うことでエナメル質に作用して酸に溶けにくい歯質がつくられるのです。
ところが、長い間日本の歯みがき剤のフッ素濃度の上限は1000ppm。諸外国と比較すると明らかに濃度が低く、子ども用の歯みがき剤程度だったのです。
「今年3月、歯みがき剤のフッ素濃度の上限が、諸外国と同様の1500ppmまでに引き上げられました。ようやく欧米並みです」(倉治歯科医師)
適切な量のフッ素が含まれたからこそ、歯みがき剤は適量を使用することが大切になってくるのだそうです。図の分量が目安になると倉治歯科医師。
「フッ素の中毒性を心配する人もいますが、それは大量にのみ込んだ場合に起きること。適量を守っている限り心配はいりません」
ただ、市販されている歯みがき剤でフッ素濃度が明記されているものは少なく、「6歳未満の子どもには1500ppmの使用は控える」と厚労省が通達しているにもかかわらず、使っている歯みがき剤のフッ素濃度を確認できないという問題があります。
「日本口腔衛生学会は、すべてのフッ素配合の歯みがき剤にフッ素濃度の表示を義務づけるよう要望しています。安全に、そして確実にむし歯を予防するためにも、フッ素濃度表示が一般化されることが期待されます」(同)
(取材・文/神素子)