70年代タッチでインパクト十分だった2013年の第1作目
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80年代風の2014年作品
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3作目の2015年版は、時代が進んで90年代風のタッチに
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2016年版。6月から登場の最新作は、どんなタッチに?
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「痴漢です!!」

【2014年以降のポスターはこちら】

 目ヂカラの強いマンガ風キャラクターが、訴えかける。

マンガのコマ割り仕立てで、鉄道での痴漢撲滅を訴える首都圏鉄道各社と警察庁、警察各本部合同のキャンペーンポスター。インパクトは抜群だ。首都圏の駅を利用していれば、目にしたことがない人はいないだろう。

 このキャンペーンポスターが初めて登場したのは、2013年。このとき「痴漢です!」と叫んでいたのは、60~70年代の楳図かずおを思わせる少女恐怖マンガタッチの女の子。駆けつける面々も、懐かしい劇画タッチで描かれていた。これは、オマージュ・パロディなのか、ベテラン作家の手によるものなのか。 企画を立ち上げた、ジェイアール東日本企画の田中誠也さんは、痴漢被害者は、面と向かって「やめてください」と対処しにくいという。

「痴漢行為に周囲の人たちが気づいてあげること、怖いだろうけれど声を出してほしい、そうすれば周りの人たちが助け舟を出してくれる。みんなで協力して痴漢を撲滅するという思いをポスターに込めました」

 なぜコミック調のポスターになったのだろうか。

「抑止でなく、痴漢自体に注目を集めること。話題性にウエイトを置くためにとにかく目立つ広告にしたい。それで劇画タッチのマンガを思いつきました。劇画の表現はオーバーなので、セリフが真面目であればあるほど効果を発揮します」

 そこで誕生したのが冒頭のポスターだ。翌14年には絵柄が80年代ラブコメタッチに。さらに次の年は90年代風に。絵柄は変化しているが、描いている人は、実はひとり。イラストレーターの師岡とおるさんである。

「師岡さんの魅力は、漫画家さんのタッチを自分の中でうまく消化し、受け手側の視点に合わせて再構築することにあると思います。いろんなジャンルのマンガをハイクオリティで仕上げる。ひょっとしたら、お手本にする“本物”よりも本物らしいかもしれません。そして、グラフィックデザインとしての完成度とディティール、そのバランスがすばらしいと思います」(田中さん)

「時代を模倣」したポスターの反響は大きく、田中さんも想定していなかったシリーズ化が決まった。師岡さん本人に、影響を聞いてみた。

「痴漢のポスター描いてますと、自己紹介がすごく楽になりました。そのぶん、電車に乗るときはものすごく気を付けてます。痴漢にだけは間違われないようにしないと(笑)」

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