「例えば日本人は、単数形と複数形の使い方がわからないってよく言うよね。日本語にはそういう概念がないのだから、仕方がないよ。会議の場で意見を聞かれたとき、“I have no ideas.”(案がありません)と言うのと、“I have no idea.”(さっぱりわかりません)って言うのでは、ニュアンスは確かに違う。でも、礼儀正しいまじめな日本人が“no idea”と言ったとしても、会議の場に何も考えてこないなんて、ありえない。ちょっと言い間違えたんだろうなって想像できる。多少の間違いは気にしないこと。そういうことを指摘するほうが、なんだかいじわるだなって僕は思う」

 カンさんの仕事の現場では、英語のネイティブスピーカーと日本人とが一緒に作業を行うことが多い。仕事後、ネイティブスタッフからカンさんのもとに、ある共通の悩みが寄せられることが多いそうだ。「あの日本人スタッフは、僕(私)のことを嫌いなのか?」その真意とは……?

「目を合わせないで話すから。そういう日本人って案外多いんだ。英語を流暢に話す人でも、こういうケースは少なくない。僕たちは子どものころから相手の目を見て話すように教え込まれている。だから、目を合わせてもらえないとすごく不安になってしまうし、自分は嫌われているのかなって考えてしまう。これは日本人に気をつけてほしい点だね。相手の目をじっと見るのが恥ずかしいのかもしれないけれど、目を見ないで話すのは失礼にあたるよ。英語を話すときは、とくに注意してみてほしいな」

 カンさんが気になるもう一つの点は、日本人が相手の名前をあまり呼ばないこと。

「英語では、会話の中で、文の最初や最後に相手のファーストネームを呼びかけるのが普通なんだ。“What do you think, Kan?”みたいにね。ささいなことのようだけれど、ネイティブは必ず心がけていること。だからこれも逆に名前を呼ばれないと、なんだか違和感を覚えるんだよね。意識すればそんなに難しいことではないと思うので、英語を話すときは、ぜひ取り入れてみてほしい。名前を呼ぶだけで相手との距離がぐっと縮まるし、例えば仕事の上なんかでもプラスに作用すると思うよ」

 さらにカンさんは、ボディーランゲージの大切さを指摘する。

「英語では身振り手振りをつけて話すのが普通。それも含めて、意味や気持ちを伝えるということなんだ。だから、身振りを加えていない場合は、その気持ちが“少ない”と思われてしまいがちなんだよね。身振りを加えると、本当にうれしいんだなって感じが増すでしょう? 急に身振りをつけて話せって言われても、難しいかもしれない。日本語を話すときよりは、少しオーバーに表現しようって意識するといいと思う。英語で話すとき、自分のキャラクターを変える必要はないけれど、少しだけ、英語の文化に近づく気持ちで、英語を話してみてほしい」

 最後にカンさんはこうアドバイスする。

「僕が英会話教室の講師をしていたとき、上司からフリートークでは日本人生徒に“What do you think?”という質問をしないこと、と注意された。日本人は意見を述べるのが苦手だからという理由だった。でも、自分の意見なんだから、とやかく言われる筋合いはない。“I think”で話し始めればいいんだよ。自信を持って英語でどんどん話してみてほしいな」

(取材・文/岡田慶子)

※『AERA English2017春夏号』より

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