ブラジルW杯での敗退を受け、ハビエル・アギーレ監督(当時)を招聘した霜田正浩技術委員長(同)は、新監督に対しロシアW杯に向け4段階のノルマ(クール)を設定した。
まず第1クールは、15年1月にオーストラリアで開催されるアジアカップでの優勝と、選手の見極めだった。アギーレ監督は武藤嘉紀(FC東京・当時)や森岡亮太(神戸・同)など若手を積極的に起用したものの、アジアカップは準々決勝でUAEにPK戦の末敗退。そしてアギーレ監督は、スペインのクラブチームの監督時に八百長事件に関わったとして、代表監督を解任された。
後任は15年3月に就任した現監督のハリルホジッチだが、彼に課せられたノルマは前任者と変わらなかった。霜田は、その理由を「日本代表の期分け(クール)であって、アギーレの期分けではない。日本はブラジルW杯で負けたが、ロシアW杯で勝つための期分なので、それは誰が監督をやっても変わらない」と説明した。
その第2クールはW杯2次予選。相手は格下のため、選手を試行錯誤しながら勝ち点を確実に稼ぎ、最終予選につなげるというものだ。格下相手だけに、日本が得意とするポゼッション・サッカーなど、試合内容にはこだわらないというものだった。そして、第3クールは最終予選で、これは内容よりも勝敗にこだわりつつ、いかにしてチームを熟成させるかがテーマになっていた。最終クールは、W杯の本大会に向けて、どんなマッチメークを組み、キャンプ地を決めて結果を残すのかというプロセスを霜田は想定していた。
ロシアW杯に向けてチームの熟成を図る第3クール。昨年9月から始まった最終予選では大島や小林悠、井手口ら若手を起用したが、折り返しとなる23日から始まるUAE戦とタイ戦では、経験豊富な今野、倉田、高萩を選択した。今野はボランチが本職だが、CBやサイドのポジションもできるポリバレントな選手だ。同様に倉田もボランチとトップ下、サイドアタッカーと使いでのある選手。さらに両選手に共通しているのは豊富な運動量だ。
そして同じボランチながら攻撃を組み立てる高萩は、視野が広く、ワンタッチで決定的なパスの出せる司令塔である。ハリルホジッチ監督は「183センチでフィジカルも強い」と評価していることで、大島や柏木(浦和)に代わるゲームメーカーとして招集したのだろう。この3選手に共通しているのは、カウンターで効果を発揮するということだ。
高萩の決定的なスルーパス、今野と倉田の前線からの守備力と攻守の切り替えの速さ。チームのベースは、スタメンかどうかは別にして川島、吉田、長谷部、本田と核になる選手は決まっている。攻撃陣は久保、香川、清武、岡崎、大迫などタレントは豊富だ。ここに最後のピースとしてハリルホジッチ監督は、W杯でジャイアント・キリングを起こすために必要な経験値の高いカウンター要員の3選手を加えた。
チーム作りはまだ第3クールの途中ではあるが、最終クールに向けてハリルホジッチ監督がどのようなゲームプランを採用するのか。勝敗はもちろんのこと、どのような試合運びをするのか、そしてどんな選手起用をするのか。指揮官にとって、ロシアW杯の本大会を想定した戦いのスタートとなるUAE戦であるだけに注目したい。(サッカージャーナリスト・六川亨)