怪我や私的な問題を言い訳にせず競技と向かい合う、その姿勢もまた浅田の矜持である。2011年全日本選手権の2週間前、当時21歳で母を亡くした浅田に対し、報道が過熱していた。佐藤信夫コーチや同門の小塚崇彦氏も浅田を気遣い、報道陣に対し配慮を求めた。それでもなお、浅田から母の死に関するコメントを引き出そうとする質問は繰り返された。浅田は「母」の言葉を一切口にせず、報道陣に対し真摯に、いつもと変わらず穏やかに応対していた。当時大きく報道されることのなかった浅田の矜持は、5回目の全日本優勝として表出した。
ロシア女子と並んで熾烈な日本女子の戦いのなかでは、全日本の表彰台に上ることは難しい。今大会は、浅田の2014年世界選手権での総合得点の自己ベスト(216.69)を先のISU・グランプリファイナルで上回った(218.33)、全日本2連覇中の宮原知子(19)を筆頭に、ジャンプの得点で浅田をしのぐ若手が結集した。ここで上位進出しなければ、四大陸選手権や世界選手権の日本代表を逃すことになる。だが浅田には、ジャンプの得点を補う演技構成点のアドバンテージもある。ソチ五輪フリーのような矜持を見せられるか。長く大きく光り輝いてきた浅田真央の競技人生は、私達の人生も照らしてきた。浅田の大一番が再び私達を鼓舞させるだろう。(文=Pigeon Post ピジョンポスト 島津愛子)