「現状の製本技術では本の厚みの限界は8センチ。2400ページ、つまり1200枚もの紙を1冊に綴じるため、通常は問題にならないような、1枚あたりの紙の厚さのばらつきが、この本では大きな壁になりました。1枚が1ミクロン(0.001ミリ)余計に厚いだけで本の背の厚さが最大1.2ミリも変わってしまい、収納ケースに入らなくなってしまうのです」
そのため、紙選びに苦心することになった。
「薄さと画質を両立できる紙を探し出す必要がありました。また、ページの裏側の絵が表側に透けて見えてしまう『裏抜け』も最小限に抑える必要があり、さらに大量のページ数になるので読者がめくりやすい手触りにもこだわりました」
結果として探し出した紙は「企業秘密」とのことだが、テスト本作りには通常の4~5倍の時間と労力を費やしたという。
こうした苦労を経て誕生した『DEATH NOTE 完全収録版』だが、実際に読んでみると、決して見かけだけの"出落ち"商品ではないことに気づく。通常のコミックスの場合、当然のことながら、1巻読み終えるごとに次の巻に手を伸ばす必要がある。しかし本作は、2400ページもの作品を中断なく一気に読み切ることができ、これがストーリーへのより深い没入感を与えてくれるため、通常のコミックスとは大きく異なる読書感を得られるのだ。
もちろん、欠点がないわけではない。企画担当者いわく、読みやすさにもこだわり、「通常よりも本の奥まで開けて読めるよう、本の背を閉じる糊も特別なものを選択。硬くならず、少量で均等に接着できるものを使用した」とのことだが、実際に本を開いてみると、2400ページという厚さゆえに見開きの中央付近の絵は見やすいとは言い難い。
とはいえ、『DEATH NOTE 完全収録版』の登場が漫画という媒体の可能性を広げたのは事実だ。少なくとも10巻前後で構成される漫画作品ならば、『DEATH NOTE 完全収録版』と同じ体裁で出版できることが証明された。そしてそうした巻数の作品には『寄生獣』(講談社、全10巻)、『ドラゴンヘッド』(同、全10巻)、『ハチミツとクローバー』(集英社、全10巻)など、名作と呼ばれる作品が少なくない。
1巻2400ページのコミックスという前人未到の挑戦が漫画界にどのような波紋を投げかけるのか、期待を抱きながら見守りたい。(ライター・小神野真弘)