
■決断に正解はない
くーちゃんの臓器は各地に運ばれ、5人に移植された。心臓は10歳未満の女児に、肝臓は男児に。ふたつの腎臓と小腸は10代の男女に。彼らが今後、どんな人生を歩むかはわからない。それを知りたいとも思わないという。それでも、5人の体のなかでくーちゃんの臓器が生き続け、彼らを支えている事実に拓さんらは励まされている。
臓器を提供するかしないか。そこに正解はない。提供する決断にも、しない決断にも、それぞれに家族の深い苦悩がある。拓さんはこう言う。
「移植するのが善だとか、正しいなどとは思いません。提供しない決断も尊重されるべきです。ただ、脳死はいつ誰の身に降りかかるかわからないことは知っておいてほしいし、家族がそうなってしまったときにどんな決断をするか、当事者になる前に、冷静に考えられるときに少しでも想像してほしいと願っています。起こらない方が良い万一が起きた際、それがきっと、苦悩を減らす助けになると思います」
(編集部・川口穣)

※AERA 2023年2月13日号