クラブによっては、絶対にこの選手を売りたくないという意志表示として高額の移籍金を設定する場合がある。しかし、ヴァツケCEOがバイエルンに高値をふっかけたのは、フンメルスを断固残留させるというアピールではなかった。もちろん慰留にも努めただろうが、バイエルンから望みどおりの額を引き出すことができればそれでよし、という経営者らしい戦略だった。交渉がまとまったあと、ヴァツケCEO本人が独紙『ルール・ナッハリヒテン』に対し「バランスシート的にも、申し分ない。我々はマッツを(2009年に)大変な好条件で手に入れ、今度は多額の移籍金が手に入る」と話したことがそれを物語っている。

 また、かれこれ4年もタイトルから遠ざかっているチームを若返らせようとしているトゥヘルにとっては、フンメルス退団によるダメージよりも、今後に向けて得るものの方が大きい。何といっても3800万ユーロである。これだけあればプロジェクト着手には十分だ。

 この「フンメルス・ポーカー」、ベットしたのはドルトムント、乗ったのはバイエルン。ゲーム終了時、高い手で上がるのはむしろドルトムントという可能性もある。