バイエルンがフンメルスを獲得した理由は、何といっても権力の誇示にある。マリオ・ゲッツェしかり、ロベルト・レヴァンドフスキしかり、マリオ・ゴメス、ヴァレリアン・イスマエル、チリアコ・スフォルツァ、フェリックス・マガト、オットー・レーハーゲル……、選手だろうと監督だろうと、バイエルンはその時々で自分たちの地位を脅かしていたクラブからビッグネームを奪ってきた。相手チームの弱体化を目論んでの取り引きはバイエルンのお家芸だ。

 フンメルス加入で国内無双となるバイエルン、片やドルトムントはゲッツェ、レヴァンドフスキに続きまたもバイエルンへの主力流出で意気消沈──、ファンの間ではそうした見方が一般的だが、はたしてポーカーの勝者となったのは本当にバイエルンなのだろうか? トーマス・トゥヘルは守備の要を引き抜かれた“気の毒な”監督なのだろうか?

 一部のドイツメディアはそうではないとの見方を示している。

 フンメルスはフィジカルに優れ、ビルドアップ能力にも秀でており、間違いなくドイツ屈指のCBだ。ドルトムントはその絶妙なロングパスの恩恵を何度受けたかわからない。しかしフンメルスの弱点はスピードに欠ける点。バイエルンは今季チャンピオンズリーグ準決勝でスペインのアトレティコ・マドリーに敗れたが、フンメルスの加入でアトレティコのようなチームにも負けない守備網が完成するかと言えば、正直微妙だ。敏捷でアグレッシブな攻撃陣との一対一に彼が勝てるかという点に関し、専門家の答えはノーである。CBでコンビを組むジェローム・ボアテングが、持ち場をおろそかにしがちなフンメルスのカバーに追われる可能性もあり、今回の契約でバイエルンがパワーアップするとは必ずしも言えないのだ。

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