茨城県大洗町を舞台にしたアニメ『ガールズ&パンツァー 劇場版』が11月21日、全国77館で上映を開始した。TV放映が開始されてから3年たっての新作。年間約200作品が生み出されるアニメ業界のなかで、人気が続くヒット作品だ。
ガールズ&パンツァー(以下、ガルパン)は、女子高生が戦車に乗って己の修練とする「戦車道」と呼ばれる武道に励み、「戦車道」の全国大会に挑む、というストーリー。突飛な設定も面白さの一つなのだが、大洗の街並みが克明に描かれているのも特徴だ。TVアニメは2012年10月~翌年3月まで放送されたが、舞台となった大洗には今でも大勢のファンが訪れ続けている。
映画公開の一週間前、11月15日には「大洗あんこう祭り」が大洗マリンタワー前芝生広場で開かれた。これは茨城県の特産品であるアンコウを使ったあんこう汁を来場者に安く振る舞うというもの。毎年11月に開催され、今回で19回目を数える。
会場のステージではアンコウのつるし切りや友好都市の団体による踊りが披露されたほか、「ガルパン」の声優陣によるトークイベントも催された。来場者数は一日で11万人を記録。大洗町の人口は約1万7000人で、実に町民の6.5倍もの人が集まった。ここ3年は、10万人以上の客入りで、過去最高記録を更新中だ。
なぜ、これほど人気が続くのか。大洗町役場商工観光課の平沼健一さんはこう話す。
「放映直後から、商店街などにファンが訪れるようになりました。しかし、こうしたファンにどう対応すればいいか、という声が各商店から寄せられました。そこで、町や商工会は『ガルパンのことは教わってください。大洗のことは教えてあげてください』と呼びかけることにしたのです」
こうした積極的な声かけが、各商店とファンとの交流に繋がり、リピーターを生んだという。「ガルパン」を目当てに大洗を訪れる人には、今や“常連”も少なくない。
また、リピーターを飽きさせない努力も怠っていない。町内では「ガルパン」のスタンプラリーを随時実施しているほか、空き店舗を利用して、ガルパンとコラボした喫茶店やギャラリーもオープンした。
実際に町内の商店街を歩くと、各商店の軒先に、キャラクターの等身大パネルが置かれているのが目に入る。全部で56体もある。さらに面白いのは、各店の店主の等身大パネルもある点だ。初めてお店を利用する客やファンに店の顔を覚えてもらうために始めたという。
「TV放映当初からファンの方がお見えにはなりましたが、等身大パネル設置から急激に増加しました。今では商店街全体の売り上げは、東日本大震災前の倍以上になりました」(作品に登場した鮮魚店「魚忠商店」の店主・今関雅好さん)
ただ、通常こうしたキャラクターを使用する場合、使用料が必要だ。その使用料だけでも膨大にならないのだろうか。
「実は、等身大パネルのキャラクター使用料は一切取っていないんです」と話すのは、「ガルパン」の版元にあたる、バンダイビジュアル宣伝部の廣岡祐次さんだ。
「大洗の商店街は作中の舞台として使わせていただきましたし、そればかりか戦車によって一部の商店が壊れてしまう描写までもありました。その感謝の気持ちとしても、一緒に大洗を盛り上げていきたいという思いがあります」(廣岡さん)
なぜ、ここまで地元と制作側とが密に連携をとれるのか。廣岡さんはこう続ける。
「『ガルパン』がアニメオリジナルで、漫画家などの原作者がいないため、版権使用の話がスムーズに進みます。しかし何よりの要因は、大洗に窓口となる人物がいるからです。何かあったとき、こちらとしても誰に相談すればよいかが明確なので、迅速に対応できます」
この窓口役となる人物が、土産物店「大洗まいわい市場」を経営する常盤良彦さんだ。アニメ放映当初から役場や地元商店の企画や要望を一挙に引き受けている。
「大洗商店街や関係各所の皆さんが、“おもてなし”ができている。今ではファンと地元の人との間で、『また来たよ』『おかえり』『ただいま』というやりとりも見られます」(常盤さん)
アニメを使った地域振興に詳しい、北海道大学観光学高等研究センターの山村高淑教授はこう分析する。
「地域側と製作側双方にキーとなる人物がいて、非常に厚い『信頼関係』が構築され、これをベースとして、ファンと地域社会が密な関係性を構築していくこと。これがアニメの舞台が盛り上がる重要なポイントです」
劇場公開でさらに盛り上がりそうな大洗。「ガルパン旋風」、その勢いは衰えることはなさそうだ。
(ライター・河嶌太郎)