どうすれば小泉今日子のように、齢とともに魅力を増していけるのか―― その秘密を知ることは、現代を生きる私たちにとって大きな意味があるはず。
日本文学研究者である助川幸逸郎氏が、現代社会における“小泉今日子”の存在を分析し、今の時代を生きる我々がいかにして“小泉今日子”的に生きるべきかを考察する。
※「なぜ『あまちゃん』は大ヒットしたのか? 背景にバブル以降の文化潮流」よりつづく
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2013年に放送された、NHK朝の連続ドラマ『あまちゃん』では、「東日本大震災に襲われた東北の街」を描くことが放映開始前に決まっていました(注1)。企画が走りだした段階で、「復興」と正面から向きあう覚悟が作り手たちにあったのです。
事実、『あまちゃん』の結末では、おもな登場人物たちがそれぞれ「震災からの復興」とかかわりながら「再生」を遂げます。
ヒロインの天野アキは、小泉今日子演じる春子のひとり娘です。東京での「アイドル修業」を経て、震災後、北三陸市の海女クラブの二代目会長となります(初代会長はアキの祖母・夏)。親友ユイと結成した地元アイドルデュオ・潮騒のメモリーズも、最終回で復活させます。
アキは、高校生になるまで北三陸を訪れたことはありません。東京生まれの東京育ちで、デタラメな方言を話す「ニセ岩手県民」。芸能人としての資質もB級です。大女優・鈴鹿ひろ美から「女優には向いていない」と断言されており、歌も得意ではありません。
アキは最後まで、「スキル」や「根性」の点では「アマチュア」です。自分でも「オラは『プロちゃん』にはなれない」と口にします。彼女の「武器」は、「自分がなんとかしてあげなくちゃ」とまわりに思わせ、結果的に多くの人を動かすその「キャラ」です。それを活かして、「よそ者」で「演技も歌も今イチ」なまま、アキは北三陸になくてはならない存在になっていきます。「本物」にふさわしい「資質」はなくても、「自分らしく振るまうこと」によって「本物」になる――アキが達成したのはそれでした。
アキの親友でパートナーのユイは、「地元の名士の家」に生まれた「お嬢さま」です。彼女ははじめ、東京に出て「アイドル」になることを夢見ていました。
都会に行って何ものかになる――2008年にリーマンショックでとどめを刺された「消費文化の時代」に、多くの女性がとりつかれていた「欲望」です(助川幸逸郎「なぜ小泉今日子は2010年代に『再浮上』したのか?」dot.<ドット> 朝日新聞出版 参照)。こうした「時代おくれ」の目標は、当然、達成されません。ユイの上京は、一度は父親の病気によって、もう一度は震災によって阻まれます。
震災に見舞われた北三陸にもどったアキは、ユイに告げます。「ユイちゃんに北三陸が一番いいぞって教えるために帰ってきた」。これを聞いてユイは叫びます。