ここでいう信用問題とは、特殊性癖を表に出すことで、相談業者への登録目的が“結婚相手探し”ではなく、“性のパートナー”探し目的になりかねないことだ。これがまかり通ると結婚相談業全体の品位をも損ないかねない。
そうした背景を反映してか、今回取材した日本結婚相談所連盟に加盟する結婚相談業者の15社のうち、その全てが特殊性癖を条件とする相手探しの依頼を断っていた
東京都内の女性相談業者は強い口調でこう述べる。
「いくら年収1000万円以上、資産3000万円以上、1部上場企業勤務といった“結婚データ偏差値”が高い男性でも、カウンセリングの席で特殊性癖を具体的に挙げて、それに見合った相手を探せと言った時点で辞めてもらっています。結婚を目的とした入会ではないためです。とてもお世話できませんから」
業界全体が特殊性癖を表に出す相手探しに否定的だが、実のところ個々の相談業者間では、「こうした流れには逆らえない」(大阪府内の男性相談業者)という認識があるのもまた現実だ。
「離婚理由に男女とも“性的不調和”が挙がっている以上、“責任ある業者”として何らかの方策を考えなければならないのかもしれない。どこか不快の念を禁じえないがやむを得ない」(前出・大阪府内の男性相談業者)
そもそも結婚とは何かという根源的な問題に直面するこの動き、結婚相談業者の立場から、前出の佐野氏はこう警鐘を鳴らす。
「結婚とは、“価値観とSEX”、この2つの折り合いと、“お金・時間・行動”の3つの制約からなっているといいます。折り合いと制約――これがうまく行けば互いに心地よい夫婦関係が築かれる。もちろんすべてが同じにとはいかない。なので、互いに理解しあい譲り合う気持ちが結婚では大事だ」
特殊性癖を持つ人を悪いとはいわない。だが、性的快楽の追求を目指すパートナー探しと、互いに譲り合いつつも深く身も心も結びつき社会的責任を伴う結婚ではそもそもの目的が違う。結婚相談所が特殊性癖を条件に挙げた成婚をプロデュースすることどんなに多様な性が認められようともやはりなさそうだ。
(フリーランス・ライター 秋山謙一郎)