東日本大震災に伴う原発事故は、日本人の「脱原発」の機運を高め、さらに電力会社の体質を私たちに知らせるきっかけとなった。ニュースキャスターの辛坊治郎氏はテレビ番組で電気料金の算定方法を解説したところ、某電力会社から「誤解があるようなので、詳しく説明したい」と連絡があったという。説明を聞き、素朴な疑問が芽生えたという。
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電気科金は原価に一定乗率の利益が上乗せされて決まる。とするならば、発電原価が他の方法に比べて「圧倒的」に安いとされている原子力比率が高い電力会社の料金は、「圧倒的」に安くなくてはならない。
東日本大震災前の各電力会社の原発比率は、関西電力が「圧倒的」に高くて51%、東京電力は32%、中部電力は15%だ。コストは発電費用だけではない。地方に行けば行くほど、一本の送電線から給電できる世帯数が減る。その一方で、電柱設置の地代は地方が圧倒的に低い。日本の電力会社の「コスト事情」は、それこそ千差万別だ。その中で、同じ都市部にあり、管轄区域の面積など諸条件が似ており、原子力比率だけが大きく違う中部電力と関西電力の電気科金の比較には意味があるはずだ。そう考えて計算を始めた。
関西電力は基本料金がなく、15キロワット時までは一律320円25銭だ。これに対して中部電力の場合、1092円の基本料金がかかる(40アンペア、以下同)。ところが、中部電力の場合、120キロワット時までの料金が1キロワット時あたり17円05銭であるのに対し、関西電力は19円05銭となっている。さらに120キロワット時を超えると、中部電力は1キロワット時21円09銭に対して関西電力は24円21銭、300キロワット時超でもその差はほとんど縮まらない。
さあ両電力会社で457キロワット時使用した時の電力料金はいくらになるか?
関西電力が1万689円、中部電力が1万469円である。その差わずかに220円に過ぎない。かたや原発比率51%、かたや15%、それなのに電気代はほとんど同じなのだ。
標準家庭(月300キロワット時)で計算すると、電気科金は、実はおそろしいほど全国ほぼ一律なのだ。これを知ると大きな疑念が浮かび上がる。個々の電力会社の料金表に見かけ上だけ大きな差異があるのは、「実は同一料金」ということを隠す手段ではないのか。そもそも「総括原価方式」自体、経済産業省が主導する護送船団から目を逸らすためのフィクションではないのか? そうでなければ発電方法、地域事情などこれほどまでに差異がある中で、全国の電力会社の料金が「同一」になるはずはない。
※週刊朝日 2012年7月13日号